明くんの憂鬱



 ねえ、俺を見て。

 雪と仲良く仕事した後に、俺で遊ばないで。


「手、はなして」
「やーだ」

 にちゃにちゃ。

「ひっ、りょう」
「キスしていい?」

「だめ、…っひく、りょ、やめっ」


 ああ、涙が溢れ落ちる。ポロポロぽろぽろ。


「やめないよ」


 痛い。亮の鋭い声がしたら、急に唇を噛みつかれた。さっき噛むの禁止って言ったの誰だよ。しかも本当に痛い。脳まで噛みつかれた気分。ああ、もうだめだ。

毒素が身体中をまわる。

 ひどい頭痛がする。いっそ、殺してくれ。


「痛いよ、りょ」

 畳に涙がつたう。きっと染みになってしまうけど、今の俺には関係ない。擦られたから息が荒い。涙で目が痛い。視界がボヤける。



「痛いのも好きでしょ」

「亮、やだあ」

「なんで?」

「こんなの嫌だよお」


 もっと普通で居たかったんた。傍でそっと微笑んで欲しかったんだ。贅沢なこと願ったりしないから。だらそんなオモチャを見るような目で見ないで。



「アキは、俺が嫌い?」

「…っな」
 なんだよ、そんな目で見ないで。


 今までそんな顔、一度もなかった。いつも我が物顔で俺を組み敷くくせに。なんで今更、そんな母親に捨てられた子供みたいな目するんだよ。



「りょう」

「アキ、好き。好きだよ。」

「りょう」

「アキは俺のものだよ、離れないで」
「りょう」

 両手を背中に回され、きつく、きつく抱き締められた。なんでそういう事言うの?やめてよ。言葉で縛らないで。

 恋人みたいなことしないで。


「亮。違うでしょ?」
「え?」

「亮は雪が好きなんでしょ?」

「違う。違うんだアキ、違うよ」
「何が違うの?ゆきがいいんでしょ。男の俺なんて、からかってるだけでしょ、俺が亮のことすきなのも気持ち悪いて思ってるんだ!」


 俺は叫ぶと同時に、どん。と亮の胸板を押した。


 俺は倒れたままだけど、亮は俺の上から横に移った。畳が小さくしきむ。



「違う。違うんだ」
「何が違うの?」



 真っ直ぐ亮がいる。関係が歪んだのはいつからだったか。それさえ覚えていない。



「好きだよ。」
「もう嘘つかなくていいから。」
「違う。これは、」

「もういいから。雪の所へ行って。お願い」


 気持ち悪いだろ?男くせにお前が好きだとか。


「俺が好きなのは、」
「知りたくない!」

「明が好きなんだ!信じて」


 言葉が胸を刺した。今更名前を呼んだところで誰が信じるのだろうか。上手く息が吸えず、ひゅーひゅーと空っぽい音がした。



「嘘つき。」
「嘘じゃないよ。雪と恋人なのが嘘。明に近付きたかっただけ」

「逆でしょ?俺を利用して雪を…」


「待ってよ!」

 ドン と大きな音がして、俺は目を見開いた。


「俺はアキにしかたたないの!」



え?


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