明くんの憂鬱



「や めて、俺8時半から雪とスタジオだから」
「ふーん」



 そうだ。たしかさっき7時前だったはず。

 亮にこの部屋に連れ込まれる前に見たからもっと時間が過ぎているかもしれないけど。


 今、下着や服を亮で汚されたらたまったもんじゃないのはたしかで。


 それに、触られたくない。

 触れられる度に胸が高鳴る。好きになる。

 これ以上、好きになっても苦しいだけ。


「ね。だからさ、」


 頼むから、俺の膨れ上がった汚い欲のなんか放っておいてよ。


「そうだね。それじゃ今7時12分だから、アキだけ出しておこうか」


「…え。」



 バサリ。俺は驚きすぎて反応が遅れた。そして、気がつけば、亮は笑顔で部屋の奥にある畳に俺を押し倒していた。

「やめっ」


 俺だって男だから力はあるつもりだけど、今は体格差が邪魔をする。身長だけでなく体つきも亮には敵わない。覆い被さられると俺はすっぽり隠れてしまうからだ。


 ジタバタと暴れてはみるが動かせる範囲さえ小さい。

「暴れないで」
「はなして、くれ!」


 だめだって、亮と距離が近い。呼吸の音も心臓の音も聴こえる距離だ。



 近すぎるだろ。心臓が潰れそうだ。


「アキが協力したらもっと、気持ち良くなるから」


 嫌だ。気持ち良くないよ。性欲を満たしても心は満たされないんだ。それに、俺の気持ちの表れである体液を出してしまったら、

俺はきっと泣いてしまう。

 自分が嫌で死にたくなる。


 そのまま、心が渇れてしまう。お願い、俺に構わないで。


「アキ可愛い」
「は なして」



 始めはそれでもいいと思った。

 こんな関係になった始めは、傍にいれば雪より俺を選んでくれるんじゃはないかとも考えた。「可愛い」と言われるたびに心臓が飛びあがった。嬉しいとさえ思った。


 でも、違っていた。


 隣に居ればいるほど、肌を重ねれば重ねるほど、独占したくなった。


 俺を愛して欲しかった。薄っぺらい言葉なんか言わないでよ。
 気が付けば、都合の良い関係ではなく、愛し合う恋人になりたいと思ってしまった。


 終わりだと思った。自覚症状が出たらお終いだ。

それは、末期の証拠。

 治療薬もなければ、治療する術さえない。


 どうして、男を好きになるのは苦しいのか。






 カチャカチャと俺のベルトが外され、スルスルと下着まで丁寧に脱がされる。

 どうして俺を好きでもない人の前で下半身をさらさないといけないのか。


「やっぱ、反応してるじゃん。可愛い」
「こんな、…の雪にはバレるっんん!」

 聞きたくもない水音が耳に入る。先端を亮の細長い指で弄られ、包むように擦られる。

 気持ちいいことが気持ち悪い。嬉しくない。


「ふふ、バレてもいいよ。焦るアキがみたい。」
「!…ん、さいてい。」

「嫌がる顔もそそるね」
「ばっか、」


 こんなの嫌なんだ。好きなんだよ、亮が。


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