夏の風は静かに夜がやってくることを告げていた。もうすぐ日が暮れる。夕日をみながら私はそう思った。

 私の背中の方からハア、と彼はタバコの煙を出した。彼とは恋人のことではない、慣れた様にタバコを蒸かすただの友人だ。少し低い声がそっと響く。


「したいようにすべきだよ」

 彼はそう言ってまたタバコをハア、と吐いた。私はフェンスに掴まり、風を感じながら「そうね」と呟いた。

 彼は知っているのだ。私が今何を考えているのかを。もちろん彼は私のただの友人にしか過ぎないのだけれど。それでも、私と私の恋人の事を良く知る共通の友人でもある。あれ?(私の記憶違いでなければ)私とあの人を恋仲にするために協力してくれた同じゼミ生の中に目の前の彼も含まれていたはず。

 彼はライターを胸ポケットへしまうと、ニコリと微笑んだ。


「君の進みたい道は、君しか知らないのだろう?」
「そんなことは、ない…はずよ」

「そうだろうか」


 空の上でゆるく光るのは整った様に丸くて、なんだか嫌に思えた。「俺は月になって君を見守るよ」そう言われたのは付き合いたての頃だったかしら。


「風が涼しいね」
「夏でも日が沈めば、僕たちのものさ」

「意味わかんない」


「わからなくていいよ」

 彼はそう言ってまた微笑んだ。彼がよくわからないのはいつものことだけど、今のは何か変だ。彼が付き合っていた人は遠い国に行ってしまい、それ以来彼は少し変わってしまったのを差し引いても、なんだか変。


 私はフェンスに寄り掛かりながら遠くを見つめた。けして振り返って彼を見つめたりはしない。ああ、最上階の風は心地好い。


「私が好きなの?」
「好きか嫌いかで言えばね」

「あの人を重ねてる?」
「まあ、君は雰囲気似てるからね」

「否定しないのね」

「重ねているからって手は出さないよ。君は僕をそういう目で見ていないだろ。彼のことはそう見ている様だけど」

「やっぱり知ってたの」

 私はそう言って溜め息を吐いた。私が見つめる先に彼がいう「彼」がいた。けだるそうにタバコを蒸し、ベンチに座っている様だ。ここからでは、小さくて上手く見えないけれど。



「僕は別れるのは反対だけどね」
「いきなり、何よ」


 私が溜め息を吐くと、後ろでタバコを消す音がした。

 ねえ、したいように促したのは、嘘なの?


「日が暮れてきたね、戻ろうか」
「こらこら、はぐらかさないでよ」


 そう言って振り返ると、思っていたよりも近くに彼が来ていた。ドキン、私の胸は本能的に動いた。彼は私の長い髪に指を絡め、ふわりと笑う。


 ヤラれた。そう直感した。


「綺麗だよ君は」


 タバコの煙が晴れると、一番星はもう輝いていた。

END


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