「おわかれだね」
「うん。結衣げんきでね」
「…う、ん。ばいばい」
幼い私達。淡い初恋。どうしても言えなかった「すき」と言う気持ちは、10年経っても色褪せたりしなかった。
なーんて。
そんなの言えたらいいけどさ。10年あったら人間変わる。引っ越して環境が変われば余計。7歳だった私はもう17歳になっていて普通に恋愛だってしたし、彼氏だって居たことだってある。なのに、なのに。
「もしかして結衣?」
「…ケンちゃ」
私達は会ってしまった。出会ってしまった。あの10年前の面影を残したまま。それも向こうは友達の彼氏。私は今、目の前でビールを飲む人の彼女として。
「あれ?ケンヤ、結衣の事知ってんの?」
運命とは皮肉だ。
「あ、ああ。昔の幼なじみ」
「え、なにスゲーじゃん」
げらげら笑ってるのが私の彼氏。通称ユーくん。21歳。
「ははびっくりしたってー」
「私も」
お互い愛想笑いを浮かべて隣に座った。昔と違う匂い。ソワソワする。
「久しぶりだねー」
「そうだね、何年ぶり?」
「えーわかんないよ(…10年だよ。覚えてないの?)」
「結衣ちゃん久しぶりー」
ヒョコリと微笑むのはミカちゃん。ケンヤの彼女だ。彼女はユーくんの友達でもあり私の友達だ。因みきユーくんはミカちゃんの紹介でもある。
「ミカちゃん久しぶり。まさかミカちゃんの彼氏がカトウとは思わなかったよー」
さりげなく苗字を呼んでおいた。波風立てたくないし。
「なんかすごいよねー。ってか二人のびっくりした顔写メりたいくらいだったよ!」
「えーやめてよー」
ヘラヘラ笑って少し酔っ払ったミカちゃんに合わせる。私はアルコール飲めないからヘラヘラ飲んだフリをして。
テーブルに次々と料理が運ばれ、いい時間だからか店内が活気に満ちている。私はゴーヤチャンプルのニンジンをせっせとわけていた。するとケンヤが微笑んだ。
「まだニンジン嫌いなの?」
「ほっといて、これは人の食べ物じゃないってー」
「あはは。昔からニンジン嫌いなのか?ほら結衣、ちゃんと食えよ」
「あはっ結衣ちゃんかわいー」
「もーう、二人までやめてってばー」
そんな会話が流れるように過ぎた。店のガヤガヤが大きくなると同時に、私はケンヤにときめいていた。私は馬鹿か。
「結衣大きくなったね」
「久しぶりなのに、もう嫌味ですかあ?」
150cmしかない私はイーッと睨むと無邪気に笑ってみせた。
「ニンジン食べないからだよ」
「ほっといてってばー」
笑いながらケンヤの肩をベシベシ叩いた。これぐらいのボディタッチはセーフだよね。
「はは、かわいいままだ」
「ばかじゃないのー、酔っ払ってる?カトウは相変わらずヘタレぽいね」
ミカちゃんもユーくんも完全に酔ったのか笑ってばかりいる。
「なにそれっひどいよ結衣だってビビリのくせに」
「そーよ。だから、」
この距離でいい。もう少しだけでも幸せでいたいから、何も言わないで。
私は貴方に何も言えない臆病者のままだから。
END