キラキラ光る、街中のイルミネーション。それに反射する貴方の横顔。先輩、私ね。


「毎日毎日大変だね、高校生は」

 ここは先輩の車の内。部活に遊びにきたOBは軽やかにハンドルを握る。助手席で眺める人は、かつて私の何代か前に部長だった伝説の人。

 そんな人の代が何代か過ぎて、今は私が部長をしている。
月日は早いなー。


「いえ!社会人の方が大変ですよ!」

「それはフラフラしてる俺に対する嫌味かな?」
「え?いえ!そんなっ」

 はっ、そうだ。先輩は今働いてないんだった。理解がある両親は羨ましい限りだ。はっこれも嫌味か!


「くくっ、じょーだんだよ」
「!」

 先輩は笑ってそう言った一瞬、こっちを見た。先輩の横顔をじっと見つめていたから目が合った。ドキン。

 イルミネーションが目の中でチカチカ光った。


 先輩はアクセルを軽く踏み、ぐぐんと加速ていく。空は真っ暗だけど、地上の光は騒がしい。車内に軽やかに流れる音楽は先輩に似ていた。

 誰の曲だろう、知りたいな。



「それにしても、梓ちゃんベース上手いよね」

「へ?いや、あの、せ、っ先輩のベースに比べたら、ぜん、全然ですっ!」

 先輩は私の神様だった。中学生で学校見学に来た私の心はこの人に奪われた。

「先輩が、憧れです…」

 学校の奥張った場所にある怪しげな視聴覚教室。締め切った筈の窓やドアから漏れるのは、粗削りな音楽。そこで行われていた「クラブ見学」と称した特別ライブで、誰よりも輝いてたのはステージに立つこの人だった。


 あの頃の面影を残しているのに、この人はこんなにも大人になってしまっていた。


「ん?それは、当たり前だろ〜」
「え、あ、ごっごめんなさい」

 そうか!と気付いたときには赤信号で車は停止していた。先輩が前屈みに動く。あ、あれ?先輩もしかして、笑ってる?


「くくっ、だからじょーだんだってば」

「ひっ、ひどいですー」

 冗談と言われても、もしその言葉が先輩の優しさならどうしようと頭を過ぎる。ああ、私のばかばか。じわっと目が熱くなる。なんでもっと上手くお喋りできないんだろ。



「ふふ、可愛いーなー梓ちゃんは」


 そう小さく呟くと、先輩はまた軽やかにアクセルを踏んだ。

 え?今なんて言いました?
END


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