02

「あ、先輩!探したよ」
「(…つかさ)」

 顔を上げると颯爽と自転車に乗る司と目が合った。太陽に当たりすぎたからかクラクラした。

 全部見透かされているかのように、ふわりと微笑まれた。赤茶の髪の毛が少し湿っていた。
「(…司、汗かいてる)」
 髪に手を伸ばそうとしてやめた。その右手を拳にして、トンと司の胸板を叩く。鈍い音と共に「痛い」と言われたが俺は無視を決め、さ迷う目線を下に向けた。


「…おせーよ」
「はい?先輩が靴履き替えただけだろうと思って下足室グルグルまわって探してたの!そしたらここにいるし!こんな暑い場所で待たなくたって良かったのに、さ、早く乗って!」

「一人で帰る」
「なんで?あーもう時間過ぎちゃう!」
「何がだよ」
「ワッフル屋さん!」
「は?ワッフル・・・?ってワッフル!」

 その可愛すぎる答えに目を見開いて司の顔を見つめた。司は笑っていた。太陽みたいに。

「あー可愛い顔してるね。だから秘密にしたかったのに。先輩、前に探してたでしょ?あれね、車で回ってるお店なんだって。それで今の時間帯は公園って!だから自転車に乗って頂けませんか?」

 語尾だけ丁寧にそう言うと手を差し延べた。俺は5秒だけ目を泳がせたが、黙ったまま黒のリュックを差し出す。だってワッフル食べたいし。司はこの答えににっこり笑って前カゴに俺のリュックを入れた。

 どうやら俺が捜していた学校で話題のワッフル屋を司も捜していた様だ。そうか、それを女子に聞いてたのか。あれ?でも俺が探してることなんで知ってるんだ?そう疑問に思う間もなく「はやく」と急かされて、自転車に乗せられた。前カゴに司のカバンを入れると、くるりと俺の方を向く。

「ヤキモチ妬いた?」
「はあ?あの子達と一緒に帰るのかと思っただけだ」
「いやいや。一緒に帰っても楽しくないし。先輩と居る方がいいに決まってるでしょ?」

 太陽が反射した。いや、太陽は司だからこの言い方は変かもしれないけれど。クラクラした。なんでお前はいつもそう狡いんだ。


「俺は先輩が一番大事なんだから」

 さらっと司はそう言うとアホは前を向き直した。横顔を盗み見ようとしたら耳が赤いことに気が付いた。照れてる?


「…照れてんの?お前」
「照れてません」

「ふーん」
「うるさいな、先輩なんか知らないから!」

「うわ!急に漕ぐなよ!」
「知りません!」
 わざとジグザグに自転車を漕いで、店まで走った。それから男二人で仲良くワッフルを食べた。美味かった。ふと上をみると、ワッフル屋の看板に描かれたパンジーが俺達に微笑んでいた。

 俺だってお前が一番大事だよ。だから全部許してやることにする。


END



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