小さな花の独り言
騒がしく廊下をかける学生。手を繋いで仲良く帰る恋人達。昼間の賑やかな太陽は、夏の近付けを知らせているのか痛いほど眩しい。
「暑いな…」
俺は手で額の汗を拭い、小さな声でそう言うと、大きな大きな溜め息を吐いた。
「…さき帰りてぇ」
舌打ちをして、俺はぼそりと呟いた。
憂鬱だった期末テストは今日で終わりを告げ、生徒達は夏の訪れに喜びを覚えていた。午前中に地獄が訪れた分、正午の今が天国のように感じた。なんて浮かれながら超久しぶりにアホと二人並んで下足室に向かう途中、司のクラスの女子達に遭遇した。「あー!司くーん」「あー先輩!ごめん。先に履き替えてて」なんて、にっこり笑うから何も言えなくなって、俺はコクンと頷いた。
最近よく司を学校で見かける様になった。女の子とセットで。毎回違う女の子と楽しそうに会話をしている。会話ぐらい別にいいけどさ、でも今、俺より女をとるか?
なんて思いを消す様に俺は良く知った笑い声に背を向けて階段を下りた。そして、そそくさ靴を履きかえると、なんだがいたたまれなくて正門前まで出て来てしまっていた。
ちらりと腕時計を見る。既に10分は経っていた。
「…(そのまま待ってれば良かったんだよな)」
司の隣でそっと静かに、たまには笑ってみせたりして。そうすればこんなに胸が痛くなったりしなかったんだろうか。でもあんな場所、居た堪れない。それに何か隠してるみたいだったし。逃げ足で一人で階段を下りる時、笑顔の司の姿を見たら、心の奥に何かが突っ掛かった。そして追い打ちを掛ける様に黄色い声が胸を指した。
「はあ、」
何度目かわからない溜め息を吐くと、門近くの花壇に咲いた色鮮やかなパンジーを見つけた。誰もその花に目もくれず過ぎていく。世界から取り残されているみたいだ。それでも健気に咲き誇る小さな姿が独りの自分とシンクロした。
ちっぽけだよな。誰も気が付かない。
いつも思う。なんで俺なんだろって。だってアイツ、まあ顔はいい方だし、そもそも俺に出会う前は(俺と違って)ノーマルだったわけだろ?
今だって、楽しそうに女の子達と喋ってるんだろうし。熱でやられたのだろうか、推測が止まらない。
あの子達の中から一番可愛い子を彼女にした方が幸せだろ、きっと。ゲイで居続ける必要なんか無いじゃないか。根暗な俺の隣に居続ける意味はなんだ?
本当、なんで俺なんだろう。