滑らかな羽

真っ暗な世界。

 モゾモゾ。俺はゆっくり意識を取り戻し、寝返りをうった。

───ゴツ。

 なんだ?俺は浮ついた意識で、障害物を確かめようとゆっくり布団から顔を出し、目を開けた。するとアホがスヤスヤと寝息をたててるではないか。


 …またコイツ勝手にベッドに潜り込んだな。

「おい、アホ」

 応答はない。あくびをして、時計を見た。暗闇の中でぼんやり光るデジタル時計は深夜3:16を差している。たしか俺が眠りについたのは12時頃だから、勝手に潜り込んだとはいえもう寝てるか。


 昨日の夜はいつも通りバイト終わって、家で飯食って、風呂入って、安らかに眠りについた。

 このアホが金曜日だからって勝手に遊びに来てたが、明日(むしろ今日)は朝からバイトが入ってるから無視した。次の日ケツ痛くなるのは確実だからセックスなんてもちろんしていない。


 俺とのスキンシップが大好きなコイツには悪いことしたなとは思うけど、毎回ベッドに潜り込んで来たらさすがに怒るぞ。

 朝起きて抱きしめられてるのって心臓にすんげー悪いんだけど。


「(それにしても静か、だな。)」

 耳を澄ましても外からは車の音どころか鳥の声すら聞こえない。ただ、ただ、静かだ。コイツのゆっくりと確実な寝息が響いてるだけ。



 寝顔をじっと見つめる。長い睫毛が幼さを思わせる。なんだか、笑える。


「寝てたら可愛いのに、」

 思わずそうこぼす。コイツらしくないラブリーな寝顔が面白くて、フゥッと息を吹き掛けた。ふわりと睫毛がなびく。

「うう…」
「お。起き…、ねえのかよ」


 アホはくすぐったそうな顔をするとまたスヤスヤと寝息をたて始めた。よく眠ってるな。


 それにしても、こんなに至近距離で見つめる事なんて初めてだ。

あーあ。幸せそうな顔しちゃって。





「(…なんか、ムラムラしてきた)」
 コイツよく眠ってるし、寝てるならちょっとぐらい構わないよな?


「おーい?」

 また応答はない。よし。



「(ちょっとだけ、)」

 俺はゴクリと生唾を飲むと、腹が立つほどの整った顔に自分の顔を近付け薄い唇通しをゆっくり合わせた。

──ちゅっ。

 甘い音が渇いた唇を濡らす。




「…寝よ。」
 俺は何事もなかったかの様にまた布団に潜り込んだ。そして、奴の自分と対してかわらない胸板に顔を埋めた。


「コイツいたら、今年は湯たんぽいらねーな」



 体温て安心するし。

 最後までは口に出さないが、そう本能を改めて実感する俺だった。



END



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