にちじょうさはんじ?


「ねえ、どこ?」

「んー?」
「どこが好きなわけ?」
「んー、なにがあ?」
「だから、どこが好きなの?あんなアホ親父。」


「ええー、全部!」

 満面の笑みで「全部大好きなの」と言う夏子さんを数秒見つめ、俺は盛大に溜め息をはいた。

「…はあ、あっそ」

 わかっていたけど、親父一筋だもんな、夏子さんは。聞いた俺がアホですよ。


「ええ?なにー?聞いてきたのは、優くんでしょー」
「語尾を伸ばすなよ」

 もういい歳だろうが。いつまでも女子高生気分で甘えられていても困る。だって夏子さんは親父の再婚相手なわけだし。


「細かいこと気にする男の子ってモテないよ!」
「うっせー」

 誰のためだと思ってるんだ。この天然アホ女。

「こら、お母さんに「うっせー」はないでしょーっ」
「はいはい、すみませんでした。」

 お母さんなんて呼んだことねーし。夏子さんは夏子さんだから。



「もうっ優くんのアンポンタン!晩御飯抜きにするよ!」
「ちょっ、悪かったって」

 それは困る。夏子さんの料理すげー美味いし、こんな年頃の男子が晩飯食いっぱぐれるなんてそれこそ死活問題だ。それにわざわざ夏子さんが作ってくれたものが食べられないだなんて、色んな意味で耐えられない。


「ごめんなさいは?」

 上目遣いでそう言う。白いヒラヒラエプロンの隙間から覗く白い鎖骨。エプロンで隠れる黄色いセーターその奥の秘境も角度によっては拝見出来るかも。ていうか反則だろ、その顔。

「…ごめんなさい」
「お母さん大好きは?」

「は?」
「早く言って!」



「…夏子、好きだよ」

 ああ、顔見れないとか。俺ダサい。すると、ふにゅっと柔らかいものが頭の上にぶつかってきた。ええ?


「私も優くん大好き!優くんみたいな素敵な息子が出来て幸せっていつも思うの!」

 そう俺に抱きついたまま、夏子さんは笑った。

「…あっそ」


 息子にしかなれないんだろ。ばーか。いたいけな息子をもっと大人として可愛がってくれよ。

 そんなんだから俺、諦められないんだろ。ばか母。

END
(2010.09/05〜2010.10/04)




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