であい(チカ・リュウ編)
彼を例えるなら風だ。心を掻っ攫っていくのに掴むことが出来ない。彼の様になりたいとは思わないが、それが魅力的に見えた。そしてそれが彼が持つオーラだった。
「ばっばかにしないで!」
驚く間もなく、女子生徒は頭にきたのか自身の右手を振りかざし、彼の頬を思い切り引っ叩いた。バシン。その鈍い音は、まさしく風の様に響いていた。
(うっわ〜、見ちゃった)
俺は思わず身を屈めた。ここは校舎の裏側の森。生徒からは“自然園”と言われている。青々と茂る芝生の近くに見頃を終えた葉桜は俺にとっては心地良くて、暇さえ有れば良く訪れる場所だ。そんな憩いの場所で俺は良くない場面に遭遇してしまっていた。
うわー、叩かれた男の人面倒な顔してるよ。
「痛いな。悪くない話じゃないか、第5夫人の席が空いていると言っただけだろ?」
「そんな私は、」
「それとも、君の親御さんより幾分もランクが高い企業の息子である俺に許婚が複数いないとでも思ったのかい?」
「さいてい!」
女の子は顔を真っ赤にして走って行ってしまった。
その突拍子のない言葉に俺は気が付けば立ち上がって、聞き耳を立てていた。
「あ、」
…、しまった。彼と目が会ってしまった。彼は頬を触りながらこっちに向かって皮肉な笑みを浮かべた。
「今のひどいと思わない?誰も付き合えないとは言ってないのに」
「…は、はあ。」
見慣れない男子生徒は茶化しながら不平を言った。
(どうしよう、この人すごく変な人だ。)
そんなの怒るに決まってるじゃないか。
「はは、変な人は酷いな」
「え!(頭の中読まれた!)」
俺は驚いて思わず声を漏らした。それをみて、「え?思ってたの?」と言うとさらに彼は笑った。かまをかけただけってこと?
「お前、わかりやすくていいな。名前は?」
「ち、近沢登流」
ケラケラ笑う度に両耳に沢山あるピアスが揺れた。彼の薄いブラウンの髪も同じ様に揺れた。綺麗だな。それから笑顔で手招きされたので、俺は一歩ずつ前に出た。彼は俺を頭からつま先まで眺めた。
「ふーん“ノボルくん”か。みんなからなんて呼ばれてんの?」
「…チカ」
“くん”と強調されたのは無視しておこう。どうせ母さん似だよ。
「はは、ぽいーっ!」
よく笑う人だな。
「俺はリュウ。よろしくな、チカ」
そう言って握手を求められた。心の奥で稲妻が走った。
そんな彼と仲良くなるのはもう少しだけ未来。
END
(2009.09/12〜2009.12/)
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