であい(キョウコ・マヤ編)
それは四月の出来事だった。慣れ親しんだ初等部から中等部に移り、新しいセーラー服は少し大人になった気がした。
「ねぇ」
京子は隣の席の女の子に声をかけた。それほど長くない髪を小さなツインテールにしているのが可愛い女の子だ。
聞こえなかったのだろうか、返事はなかった。
「ねぇーってば」
「なによ、煩いわね“たちばなきょうこしゅみはかいが”」
「え?」
少女は読んでいた本を閉じると京子の方を向いてそう言った。
「だから私に何かしらって聞いてるの、あんた“たちばなきょうこしゅみはかいが”でしょ?」
「あ、うん」
目の前の少女は自分が言ったことをひとつの名詞のようにさらりと言ってのけた。
(確かに、名前と趣味はさっきホームルームで自己紹介したけどこういうのって覚えてるもの?)
しかも私はぱっとしない自己紹介だったはず。
聞きたいことが変わってしまった。
「みんなの分覚えてるの?」
「はあー?」
ツインテールの女の子は不快そうに眉を歪めた。あれ、変なこと言っちゃったかな?
「当たり前でしょ!あれは“さいとうまさきみんななかよくしてね”であれが、“なかじまかよよろしく”で、あっちが“むらきさやかしゅみはふるーと」
「わかったわかったから!ストップ!」
「“たちばなきょうこしゅみはかいが”は変な人ね、そっちから聞いたくせに」
少女は机に肘を付くと、そう言って眉を寄せた。
「ご、ごめんなさい」
なんで私謝ってるんだろ?この子も十分おかしいのに。
「皐月真椰」
「ふえ?」
「“たちばなきょうこしゅみはかいが”は馬鹿そうだから私の名前覚えてないでしょ?マヤでいいわ」
「…マヤ」
「何かしら?」
「あの、私のことキョーコって呼んで!よっよろしく」
「ふん、よろしく“キョーコ”」
強気な目が印象的だった。これが私たちの出会い。
END
(09.08/01〜09.09/11)