若葉のころ3
そんな俺達の会話を無視して、真椰ちゃんはずんずんと佐々木くんに近づき、鋭い目で上から下までじっと見つめた。二人の距離が近い。
「ふーん。あんたが噂の佐々木くん?」
「…はい、噂は知りませんが、俺は佐々木です、はい、」
真椰ちゃんは小柄だから身長差はだいぶある筈なのに、佐々木くんの方が小さく見えた。
「何部?」
「…テ、ニス部です」
「ふーん。」
…真椰ちゃん?
「…チっチカ先輩、何なんスか?この人」
小さな声で「彼女?」と囁く。自分で言ったクセにしょんぼりと眉がハの字に歪む。やっぱり佐々木くんって昔飼ってたゴールデンレトリバーのクラウディオに似てる。なんだか可愛いな。
「ふふ、風紀委員長の真椰ちゃんだよ。知ってるでしょ?」
「もちろん知ってますけど」
此方をチラリと見た後、「そうじゃなくて」と俯きながらもごもごと口を尖らす佐々木くん。ん?
真椰ちゃんはさらに佐々木くんに近づき、髪を見つめた。
「あなた、良い髪の色ね」
「!…は、はい?」
少しつり目な目をニコッと閉じる真椰ちゃん。真椰ちゃんが後輩に、しかも風紀委員以外の子に笑顔になってるところ初めて見た。
でも佐々木くんは怖いのか、引きつった笑いを浮かべ俺の方をチラチラ見てくる。
目を潤まして、口をパクパク動かし「チカせんぱい」と繰り返している。可愛いなあ。
「真椰ちゃん?佐々木くんが怖がってるよ」
「あら、ふふ。アンケート預かるわ、帰っていいわよ」
「え、…ありがとう、ございます。失礼します。あ、チカ先輩、またメールしますからちゃんと返して下さいよ!」
「う うん、ちゃんと返すよ。えへ、じゃあ、またね」
「はい!」
思わず俺はにへりと笑い、手をふった。それを見た佐々木くんは満面の笑みで生徒会室を出ていった。
閉まった扉に背を向け、くるりと真椰ちゃんと向き合う。
「…なに、さっきの」
「なにがよ」
「髪の色がどーこー」
口をへの字に歪めたが、真椰ちゃんは佐々木くんから預かったアンケートに早速目を通している。
「はあ?何?黒かったから誉めただけよ」
「は…?」
「彼、染めたあとが無くて綺麗な黒髪だったでしょ。風紀委員長としては、喜ばしいことじゃない?」
「なるほど」
ああ、だからか。髪は彼女の言う通り黒くて程よく短いし、制服だって俺みたいなルーズスタイルでは無く爽やかに着てるもんね。
でも、それだけ?それだけで初対面であんなに気に入るものかな?
「それにしても綺麗な髪だったわー。チカのじゃなかったら、彼、私のお気に入りにしてるのに」
「なにそれ」
「風紀委員にって意味よ」
「ふ、ふーん」
ふわりと笑う真椰ちゃん。佐々木くんは俺のじゃないし。…真椰ちゃんのでもないけど。
それにしても、
「なに?なんかあんの?」
「…なにもないよ」
「変なチカ」
どっちがだと思わず言いそうになったのを飲み込んだ。真椰ちゃんは言ったらその後がめんどくさいタイプだし。
おかしい。彼女の笑顔を見て、なにかが引っ掛かっていた。
なんだろう。このモヤモヤ。
今はまだ霧の中。
続?