若葉のころ2
「…で?」
「うう…そんな目で見ないでよ。俺だって、」
俺だって、おかしいとは思ってる。
「まぁ、チカは押しに弱いものね。あのキョーコとすら付き合ったんだし」
「「あの」とか言わないで。良い子なんだから」
「ほー、庇うんだ。泣きながらあんたのことフッた女なのに」
「それは言わないでよ」
はあ、とため息を吐く。いつ思い出しても暗くなる。去年の末に起こった苦い思い出。雪が降っていたあの時も、泣いていた京子を結局は傷つけてしまった。
白い世界が俺を闇に突き落としたんだ。
また繰り返すのか?
「まぁ、キョーコもキョーコで色々あるけど」
「…真椰ちゃん、京子のこと嫌いなの?」
「え。普通にチカよりかは好きだけど」
「……そ、そう。」
「なに?」
「いえ何も。(真椰ちゃんって分かりにくい)」
今、俺は生徒会室で資料を整理している。隣には風紀委員長の真椰ちゃんがプリントとにらめっこしている。
例の佐々木くんと付き合い始めて1週間が過ぎようとしていた。
佐々木くんはマメな子で、毎日メールしてくるし、学年も違うのに必ず俺に会いに来る。「早く断らなきゃ」と思っているのに、あの嬉しそうな顔を見たら何も言えなくなる。
それにしても、と真椰ちゃんの方をチラリと見る。風紀委員会のアンケート用紙の集計がめんどくさいのはわかるけど、俺に当たるのはなにか間違ってる気がするんだけど。
…さっきからチクチクと言葉が痛い。
「ついにチカも男と付き合う様になったのねー」
「う…、うるさいな」
「はい、これ2年B組の集計。」
「結構集まったね、あと2・3クラスで終わり?」
「そうね。あと、3年D、F……あと、ミスター嫌味の1年A組。」
真椰ちゃんは語尾になるにつれて低い声になり、眉間に皺を寄せる。ミスター嫌味?
「ああ、英語の田中先生ね。なにその通称、真椰ちゃんが考えたの?」
ガチャリと扉が開いた。
たしかに性格は宜しくないけど、それにしても趣味が悪いあだ名。
「違うわ、リュウよ」
「失礼しまーす」
「ふーん…(なるほど)」
「ああっ!チカ先輩ー」
え?
すると、扉を開けたのは清々しいほどの笑顔の佐々木くんだった。手には今日回収する予定のアンケート用紙の束を抱えている。
「佐々木く…」
「チーカ先輩、今日も綺麗ですね!」
にこにこと手をふる佐々木くん。
「(…なんでここに、)」
「あれ?もしかして俺が委員だってこと知らなかったんですか?」
「…え。そうなんだ。」
「ええっ!マジで言ってんスか?ひどいっスよー」
「ご、ごめん。覚えるの苦手で」
「そんなー、泣きますよ俺ー」
佐々木くんはショックを受けたのかアンケートを抱き締めると、その爽やかな眉を悲しげに寄せた。
「ご、ごめんね」
「まあ、いいですけどー」
「うーごめんね」
謝りながら苦笑するしかなかった。そうか、佐々木くんはクラス委員なのか。だから俺のこと知ってたのかな。そう言えば最近バタバタしてたから1年生の委員まで覚えてないや。
「もう、冗談っスよ」
あはは、と彼が笑う度に鏡を見ているようで胸が痛い。
自分もこうなのかな。いや、俺はそれ以下だ。俺は彼のように好きな人に想いを伝えられるほど、強くない。
ただの卑怯者だ。