若葉のころ1


「すっ好きです!付き合ってくださいっ!」


 体育館横、保健室の裏。ひとけのない我が校の告白スポット。そこで俺は告白をされている。

 俺には好きな人がいるが、残念ながら目の前の人物ではない。

「えっと、あの…」

 告白してきた相手は顔を真っ赤にして、緊張のせいか、ぎゅっと握られた拳はフルフルと小刻みに震えていた。

 こういうときって何を言えばいいんだろう。自分なんかを好いてくれた事実があるから、傷つけたくない気持ちはある。

 いつもそう思って、とりあえず頷き、付き合い、そして数日で別れる。その繰り返し。

 でも、今回はそれではいけない気がする。


 なぜなら、告白してきたのは男だから。


「(…どうしよう)」
 母譲りの色素の薄い髪に、祖父譲りの明るい赤褐色の瞳。4分の1だけどヨーロッパの血が入っているせいか、同性同士の恋愛が悪いという思想はない。強い嫌悪感も抱かない。だが、なぜ自分なのだろうか。幼い頃は中性的な顔だったが、今は背も伸びたし顔付きも男性らしくなったと思うのに。


 それに、男の俺が見ても目の前の彼は爽やかで格好良い部類に入ると思う。
 彼の傍で微笑む人は、俺なんかじゃなく、もっと可愛い女の子がお似合いだとさえ思う。


 そもそも自分の記憶が正しければ目の前の彼と、話をしたことすらないはずなんだけど。


「あの、」

 まず、彼の学年すらわからない。名前は…?何も知らない。

 彼は何者なのだろうか。


「はっはい!」
「あのね、俺、君の事何も知らないし、だからね、」

「うっ……そ うっスよね。俺が勝手に先輩を見てただけなので…でも、俺、先輩が好きなんです!」

「1年生…?」

「あ、はいっ。すいません、1年A組14番佐々木巧です。」

 照れながらも真っ直ぐ俺を見つめる佐々木くん。相手の気持ちには応えられない事に申し訳なく思う。でも無理なんだ。だって好きな人がいるから。

 その人に気持ちは伝えてないけど、とにかく好きで。告白すらまだなのに彼女を守りたいとさえ思っている。

 だから、ごめんなさい。


「えっと、あのね」
「先輩、」

 吸い込まれそうな程、澄んだ瞳。性格も自分に正直で真っ直ぐなんだろうな。俺とは大違いだ。同じなのは遺伝子にY染色体がある男性という、生物学上の事実だけ。

 なのに付き合ったらどうなる?いつもの様に傷つける?それは嫌だ。もう、泣かせたくない。もう誰も傷つけたくはないんだ。

 ならどうする?


 ―――あ。そうか、傷つけてしまう前に断ればいい、終わる前に始まらなければいいんだ。

 そうだ。そうしよう。断ればいい。

 それがお互いにとっての幸せだよね。

 そう思った俺は目線を彼に合わし、精一杯の優しい微笑みを浮かべた。どうか傷付かないでほしい。これは俺の我が儘でしかないけれど。


「えっと佐々木くんだっけ?あのね、えっと俺は……」
「ちょっと待って!」

 …え?
 そっと風がそよぎ、ふわりと二人の髪がなびいた。

「…めですよ」
「え?」

「だめですっ、まだだめですよ!そうだ、付き合ってから答え下さい!だから一度でいいから、付き合って下さい!」

「え、あ」

「お願いします!」

 円らな瞳で真剣に言うのは卑怯だ。捨て犬が「拾ってください」と見つめている様な気になってくる。それにこの子ゴールデンレトリバーに似てる。駄目だ、このままだと


「近沢先輩っ!」

「えっあ、」




prev next
back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -