カップケーキ
ここは高校の生徒会室。普通教室の半分の広さではあるが、会議用の大きな机にホワイトボード。背の高い書類棚たち。場所柄上、物は多いがきちんと整理されているおかげで広く感じる。
そしてその落ち着く空間の中に、ふかふかのソファーが数個。そのソファーに座る女の子と、木の椅子に座りカリカリと書類を片付ける青年。
主人公はこの青年、小林優也。
「ショウ。こんな所で、んな甘いもん食べるな」
「うん、美味しいよ、かっぷけーき。」
…話が上手くいかない。意味がわからん。
先ほどから静かにしているのかと思えば、目をキラキラさせて、珍しげにカップケーキを口に頬張るショウ。小動物のようだ。
…黙っていたら、可愛いんだよな。
はあーあ。俺は諦めの溜め息を吐いて、手を止めた。
「誰からもらったんだ?お前作れないだろ、そんな可愛い食い物。」
溜め息を吐きながら、ショウの口のまわりに着いたケーキを指でそっと取り除く。
うー、と長い睫毛をなびかせて、小さく唸るショウ。その手に握られているものは、嗜好品の様な丁寧さはない淡白でオーソドックスなカップケーキ。
――きっと、誰かの手作りであろう。
でも誰が?
「もぐ…チカが、くれた」
ニコリとショウは微笑んだ。そうか、チカか。ん?チカが作ったのか?まぁ、アイツなら作れそうだな。結構器用だし。
「チカの手作りか」
「ちがう」
「ん?」
「チカはくれただけ。チカの為に誰かが、作った。」
は?それってつまりチカへのプレゼントってことか?
「おいおい。そんなのお前が食っていいのかよ。」
…おい待てショウ。女ってそういうの怖いんじゃねーのかよ。そもそも、誰が作ったかわかんないもんよく食えるな。
あーあ笑顔で食うなよ。
「大丈夫なのか、それ」
「知らない。」
俺も知りたくない。