嵐は突然に
ソファーから身を乗り出した瞬間、ドン、と大きな音がして横を見た。すると、呉永さんが広い机の上に大量の紙が置いた音だということがわかった。
紙から手を離した呉永さんが、橘さんをじっと見つめている。え?
「…キョウコ」
「はいはい、仕事でしょ?わかってるわよ。これ保護者に配ったらいいのよね?」
「こっち、生徒用」
大量の紙は二種類あるようで、呉永さんはピンクの紙の方をペラペラと触った。
「わかったわ。他のみんなはもう持ち場に行ったの?」
「…。」
当たり前と言うように無言で、コクリ。と頷く。
「はいはい、行きますよー。ユウちむ、またね」
「あ、え、ちょっと」
待ってくれっ、まだ聞きたい事があるって!
「行ってきまーす」
「たちば、」
バタン。
大声で入って来たのに、また大声で去って行ったな。嵐は突然やってきて、突然去っていくって誰かが言っていた気がする。
じゃなくて!
なんなんだ。なんなんだよ、今の。
彼女が言ったことは本当なら、俺がここにいる理由は、試験の結果が学年2位だったから?
ちょっと待て。だからなのか?だから、親父は知ってて、俺とこの約束を…?
はめられた。あいつならやりかねない。だから何も言わなかったのかよ。
ニセ島○作め。
「呉永さん、あの」
「…ユウちむ」
「は、はい!」
ソファーの目の前に立たれた。これじゃ、起き上がれない。窓から入る光で、呉永さんの髪が艶々と光る。
「ショウて、呼んでくれないの?」
「…え?」
……突然過ぎる。気が付けば二人しか居ない個室で悲しみに溢れた大きな瞳を上目遣いで俺を捉え、小首を傾げる美少女。
「ユウちむ?」
なんなんだよ。こう言うの免疫ないんだよ、俺。
「…く、呉ながさん?」
ゴクリ。生唾を飲みこんで、声を絞り出した。緊張のあまり掠れた声しか出ない。この場合、何が正解ですか!た、助けて。
「ユウちむ、私、キライ?」
「そ、そんなことは!」
「そう、」
なんなんだなんなんだなんなんだ!
汗が体をつたい、心臓がドクリ、ドクリと鳴り響く。
鳴り過ぎて痛いほどに。
「あ、呉永さ」
「ユウちむ、ショウよ」
「し、…ショウ」
「そう。これから、そう呼んで」
そう言うと、ショウは、嬉しそうにふくよかな唇を噛むようにしてにっこりと微笑んだ。
なんなんだ!今の会話。
ちょっと、ちょっと。え?何、何で美少女が俺が名前呼んだぐらいで喜ぶんだよ。え、そういうフラグですか、今。
「あの、シ、」