始まりの手紙
人生、どう転ぶかなんて誰にもわからない。だからこそ、やるしかないのよ。
それが、死んだ母の口癖だった。
そう言って微笑む母が好きだったのは遠い思い出。
なんでなんだ。
目の前の封筒を持つ手がカタカタ震える。
「――貴殿、小林優也を私立鷹山学園高等部、副会長に任命する。――は?」
音速チェーンメール
「つきましては、4月2日高等部入学式の…、なんで入学式に出なきゃなんねぇんだよ」
パサリ、と小さな音が聞こえた。するりと手から封筒が滑り落ちていた。
「…なんだこれ」
おかしい。おかしいだろ。よし、落ち着け。とりあえず深呼吸だ。俺は出来るだけ多く、鼻から息を吸い、ゆっくり口から吐いた。昔、誰かから聞いたヨガ(かなにか)のリラックスする呼吸法だ。
この手紙はなんだ。何で俺が副会長?
その二つの大きな疑問を、うまく回転しない頭を右手で掻きながらイライラと考える。何故、1ヶ月前に入った高校で、なんでたったの1ヶ月で(思わず二度言ってしまったけど)俺が副会長に選ばれる?
俺は小林優也。平凡な高校1年…いや、明日が4月1日だから2年だ。俺は、私立鷹山学園に春休みの1ヶ月前に転校してきたばかりで。
まだ右も左もわからないのに。
そもそも何故、高1の冬なんて中途半端な時期に転校したかと言うと、一人暮らししたかったから。
一人暮らしに憧れがあるとかそんな馬鹿な理由じゃない。正確に言うと、親と別に暮らしたかったから…と言うか。
きっかけは、今年1月に親父が再婚した事から始まる。今年50歳になる親父は、再婚相手に20代半ばの女を捕まえてきた。
あ、新しい母親と仲が悪いとかじゃねーよ。むしろ、なつこさん(奥さんの名前で、季節の夏に子どもの子で、夏子だ)は親父には勿体ないほど良い人で。
母の死後、彼女が我が家のお手伝いとして来てたから昔から世話になってたし、少し天然なところがある可愛い人だ。
彼女はいい。許せねぇのは俺のバカ親父。アイツだ。
俺が言うのも何だが、親父は若い。見た目も中身も。島○作よりも若いんじゃないだろうかて言うほど若い。女からもモテるらしいし。ますます、島耕○か!
そんな親父の嫌なところ。
否、嫌なところなんて山ほどあるが、一番無理なところ。毎日のように夜になるとあの、まぁアレだ。アレなんだ。夫婦のおたのしみだ。体と体のコミュニケーション?ガキ増やす気かもな。良い歳したおっさんがよくもまぁ、元気なもんだと呆れはするが、感心はしない。
はっきり言うとうざい。無理。
そんなのは二人っきりでやれと。だから、出てきた。
そして、実家から3時間かかるこの高校に来た。
つまり俺は、親父達と別々に暮らしたかったんだ!
そんな理由で家を出た俺だが、出て行く時には親父は何も言わなかった。あっさりと決まっていって気が付いたら転校一日目。
その日に親父とひとつだけ約束したことがある。
その夜、急に電話の音が鳴り響いた。この番号を知っているのは、親と担任のなんとかって言う教師のみだから直ぐに親だと思った。