黒い扉の向こう
「……はあ、」
ため息。そしてまた、ため息。それから、残り少ない気力を総動員して、静かな床に落ちた封筒を拾った。
理由はわからないが、生徒会役員だろうが何だろうが、なったものはしかたがない。
やるしかないだろう。母の口癖だ。「やるしかない」まさに今がそうだ。
「でもなんで俺なんだ?」
疑問を抱きながら数日が過ぎ、入学式当日。打ち合わせのために生徒会役員は朝からミーティングだそうだ。(そう手紙に書いてあった)
誰も居ない廊下。
優也はツカツカと静かな足音を鳴らし、静かな校内を歩いていた。外は日本の春を象徴する桜が美しく咲き乱れているが、白で統一された内は少し肌寒く、身が引き締まる。
「ここか」
ぶるりと緊張からカラダが震える。目の前の扉の上には「生徒会室」と凛とした字体で書かれている。
黒い扉は中々風格があるようで、身が引けてしまう。時計を見ると、8時ジャスト。時間通りだ。
「すいませーん、副会長の小林ですが…」
なんとも間抜けなセリフだと自分でも思いながら、静かに扉を開いた。
あれ?
ガランと、静かな生徒会室。誰もいない?「すいません、誰か居ませんかー?」
前より大きく声を出し、中に入ると、ゆっくりと扉を閉めた。本当に、誰も居ないのか?
「だれ?」
突然ガサゴソと遠くで音が聞こえ、音がした方を直ぐ様見上げた。この人…!
「…だれ、?」
「あ、あの俺…」
奥の扉から頭を出した1人の女子生徒と目が合った。目が大きく腰ほどある黒髪が美しい。驚き過ぎて喉が渇く。ゴクリ。生唾を飲み込んだ。
噂で聞いたことがある、彼女は学園1の美少女の呉永翔子だ。
初めて生で見てしまった。
…さすがに可愛いな。彼女も生徒会役員なのだろうか?
「ねぇ、だ、れ?」
「あっあの俺、小林優也です、副会長に…」
「あ、ユウちむ?」
「は?」
ユウちむ?
「みんなもう仕事してる。ユウちむは、私の説明、聞くこと仕事。」
カナリアのように綺麗な声がほつりほつりと言葉を繋ぐ。みんなは、てなんだ?いやいや、ユウちむとか言ったぞ。美少女と喋ったことなんかないのになんなんだ。ますます意味がわからない。
「わたし呉永、翔子。みんなショウって呼ぶ。書記長、してる」
コミュニケーションが苦手なのだろうか?流暢とは言えない言葉遣いだ。美少女は人見知りなのか。
それすら可愛いな。小動物みたいだ。