凌も美月も白夜も頭が良い。

これと言って胸を張れるものが基本的に無い俺は、頭の回転だけは速いのは自分でも理解してる。それ故に、相手の動きを瞬時に把握するのが得意だと気付かされたのは、美月達と絡むようになってからだった。

どこぞの漫画みたいだと思うかもしれないが、出来てしまうのだからしょうがない。

「(…模倣か、こいつ)」

目の前で俺の動きを真似てゴールを決めた黄瀬に舌打ちしながらも、渡されたボールを受け取って思考を張り巡らせる。

俺は1対1よりもチームでやる方が向いてるんだよなと思いながらも、ドリブルで黄瀬を抜く為に走り出した。──が、流石現バスケ部は伊達じゃない。

俺の走るコースにでかい図体を滑り込ませてから、上から覆い被さるように仕掛ける黄瀬は終始余裕の笑顔だ。だけどな、俺だって伊達にあいつらと連んでる訳じゃないんだよ。

全員が全員運動神経が良い割りには、各自弱点だってある。四人だから成せる事であり、四人だから負けなかった。

「(……凌、死んでるんじゃないだろうな)」

送られてきたメールの内容を脳裏に思い浮かべては、此処に来る前に白夜が見せたフェイントを仕掛けて身体を捻る。目測だが、黄瀬の身長は俺より10cm以上高い。だからこそ、この白夜のフェイントは価値がある物になる。

「っ、」

「こんなもんスか?期待してたんスけど、ね!」

小馬鹿にしたように笑う黄瀬に苛立ちはするが、俺は表情をピクリとも動かさずに黄瀬に弾かれたボールを見つめた。今は不思議で仕方がない。何で俺はこんな所でろくにした事も無いバスケをバスケ部の選手とやってるのだろうか。

「(これが理不尽って奴なのか?)」

いつも美月や凌が理不尽だと叫んでいた事を思い出しながら、どうやってこの面倒な対決を終わらしてやろうかと俺は頭を掻き毟ったのだった。







「俺の勝ちっスね!」

ふふん、と得意気に笑った黄瀬を横目に見ながら、俺はジャージと一緒に置いていた携帯を開いてアドレス帳を開く。月子の声が聞きたい。凄く。

転校生だとかバスケ部に入部するとか訳が分からない事ばかりで疲れた。黄瀬との1on1だって、勝つ気も無かったし、本気でする気も無かったんだからな、こっちは。

「お前、本気でやったか?」

携帯を弄る俺の隣に立った人(確か主将だ)は、俺を見たまま首を傾げて問う。

携帯を耳に当てて、電話が繋がらない事に気付いた俺は、そんな主将さんを相手にしているのも面倒だったので、適当に返事を返す事にしたのだった。

「黄瀬って超強いんですね。俺感動しました」

心にもない事を言うなと怒る美月の声が聞こえた気がしたけれど、黄瀬の強さはそんじょそこらの素人が超えられるものでも無いのは事実だろう。

月子と連絡が取れない事に絶望していた俺は、思わず口から零していた言葉を聞かれていた事に気付かなかったんだけど。

「まあ、チーム戦なら負けないと思いますけどね」



美月さん達がいれば負けないよ、みたいな




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