『一斉送信堪忍。これ何なん?俺死んでまう』

氷室くんと紫原くんが話をしているのを見計らいながらも、あの三人へとメールを送信する。そうすれば、数分足らずで返事は返って来た。…えーと、『木登りなう?』…は?

「(あの青い子に登っとんのか…?)」

メール内容を見て頭に浮かんでしまった白夜とそんな白夜に巻き込まれたであろう青い彼の姿を想像してしまい、早々に頭を振った俺は、次に返事を寄越してくれた二人のメールに目を通し始めた。

『今からミニゲームなう』
『ナルシストと1on1なう』

何で揃いも揃ってなうで返してきたのかは分からないが、白夜以外はどうやら試合を強要されているらしく、美月のメールに添付されていた写メに写っている赤いのと水色の奴を見ながら俺は小さく溜め息を吐いた。

それから、柚月から次いで送られてきたメールには『ラ行聞き取れない』と書かれていて、思わず噴き出したのは言うまでも無いだろう。







「経験者じゃない…?」

「す、すんません…!!」

「雅子ちん、いっちんが恐がってるよ〜?」

「知るか」

荒木雅子。元ヤンでありながら過去に日本代表としてバスケ業界にその名を知らしめていた彼女は、明日転校して来てはバスケ部に入部する事になっているらしい男を見つめた。

怯えたように目を伏せながら肩を縮こまらせる中性的な顔立ちをする男に荒木は詰め寄る。

確かに近付く気配に肩を跳ねさせた転校生である男に拳のひとつやふたつ落としたって構わないだろうと荒木は思いながらも、拳を固めた。

「監督、待つアル」

それを止めた劉は、顔を俯かせて青ざめる様子に納得しながらも一枚の紙を荒木に手渡す。訝しげに受け取った紙に目を通したかと思えば、荒木はバッと顔を上げて男に向かって口を開いた。

「……女性恐怖症なのか」

「………すんません」

益々身体を縮こませて謝る男、凌に荒木は溜め息を吐いてから小さく謝罪の言葉を発する。

無闇に近付いた私が悪い、と少しだけ眉に寄せられていた皺を指で解しながらも謝罪した。謝られた事に慌てふためく凌から視線を外し、隣に立っていた劉に凌のテクニックを確かめる為に予め渡されていた書類を渡してから、荒木は体育館から姿を消したのだった。

「お前、劉と氷室と同い年アル」

「(……アル?)氷室って紫原くんと居る…?」

「そうアル。上の学年には後二人居るけど紹介は追々するアルよ」

身長2mはある劉を見上げる凌に、劉は氷室に次いで顔立ちが整った奴は主将にいびられるのかと思うと面白くて堪らないと噴き出すのを堪えたのは本人のみぞ知る。







微妙に伸びた髪を後ろで結って、ニコニコと笑う氷室くんにどうすればいいのかと辺りを見渡す。

実力を見たいんだと氷室くんは言うけれど、俺には副音声で「実力が無い奴はお呼びじゃねぇんだよ」と言われてるようで、背筋に薄ら寒い物が這った気がした。殺らなきゃ、殺られる。そう悟った俺は、美月達に『殺られるなう』とメールを送ってから、着ていた学園のジャージを脱ぎ捨てた。

一条凌、逝きます。



柚月さんと見せかけての凌のターン



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