「あなたが朝野美月くんね?」
小柄にショートカットの女生徒に尋ねられて頷くと、その女生徒はふーん、と俺を値踏みするように頭の天辺から爪先までじっくりと見始めた。な、なんだろう。戸惑いながらも凌だったら卒倒してるだろうな、なんて別のことを考えてしまう。
「バスケ経験はあるんだっけ?」
眼鏡の人にも尋ねられた。中学時代の助っ人バスケは経験に入るのだろうか、いや入らないだろう。とりあえず首を横に振る。
「(バスケ経験ないのか… )」
「(ウソ、バスケ経験ないの!?じゃあこの筋肉は一体どこで身に付けたのよ…?こんなのそっとやちょっとじゃつかないわよ…)」
黙って何か考えはじめてしまった2人に、俺は困ったなぁと頭を掻いた。そもそもここはどこなんだろう、俺たちはどうしてここに来て、どうしてバラバラにされたんだろう、ていうか目的はなんだろう。尽きない疑問。たぶんこの人たちも理由はわからないだろう。だとしたら聞いても無駄だ。じゃあどうしよう?仕方ない、この世界のルールに乗っ取って生きていくしかないのだ。
「あ?誰だ、あれ」
今まで練習に夢中だったためか、火神大我は見知らぬ顔に首を傾げた。火神の言葉に気付いた伊月俊が「ああ彼は転校生だよ」と説明をする。
「明日誠凛に転校してくるらしい…ハッ転校生よ、転向せい!キタコレ!」
「全然上手くないよ〜伊月ー」
「………(コクン)」
小金井と水戸部の言葉にそんな…と落ち込む伊月に、これ以上の説明は無理だろうと判断した火神は、小金井に尋ねる。
「あの人バスケできるんすか」
「さあ?」
「さあ?って…」
「俺たちにもよくわかんねーんだよー。カントクが今朝急に今日から新しい子入るからー!って。なー、水戸部」
「(コクン)」
「ふーん…」
よくわかんねーけどまあいいか。
深く考えない火神は、再び練習を始めるとすぐにテンコーセイとやらのことは忘れてしまった。
眼鏡の人が集合をかけて(この人キャプテンだったのか)、体育館で練習していた人たちが規則正しくびしっと整列。俺はその目の前に立って、訝しげな視線のシャワーを浴びていた。
「(てか人少ないな)」
部活にしては少ない気がする。三年生がいないけど、もう引退してしまったのだろうか。ていうか今何月?
「えーと、明日から転校してくる朝野美月君だ。バスケ部に入るらしく、今日は見学だそうで」
「あ、はい」
眼鏡の人が全部言ってくれたから助かった。とりあえずよろしくお願いします、と頭を下げる。
んじゃ端から紹介していくな、と言って何やら美形の人が前にでてきた。あ、なんかこの人柚月に似てる。
紹介によると眼鏡の人は日向、美形の人は伊月というらしい。なるほどなるほど覚えました。
そしてなんとこの誠凛高校は新設校らしく二年生までしかいないらしい。すげえな、そういう学校ってやっぱりあるんですね。
「で、朝野くん」
「あ、朝野でいいですよ」
「そうか、そうだよな。お前も敬語じゃなくていいから」
「あ、うん」
「で、時に朝野」
「うん?」
「お前、バスケしたことないんだよな?」
日向の言葉に周囲がざわめく。えっだめ?バスケ経験ないってだめかな?そりゃだめだよななんでバスケ部来たって感じだよなごめんな…。
申し訳なさげに頷くと、日向はそっかーと言って部員達に目を向けた。
「んー、じゃあとりあえずゲームさせてポジションを見極めよう。俺と伊月と水戸部とコガと朝野対一年生な」
日向の言葉にまたもやざわめく。えっなんなの今日。もう勘弁してよ俺の今日の豆腐メンタルいま半端ないんだからこれ以上緊張させないでくれる。
「日向先輩、バスケ経験ない人に火神と黒子はちょっと…」
「あー?大丈夫だっつの」
「で、でも…」
「俺は勝負できればなんでもいーわ」
「本当単純ですねキミは」
「んだと黒子ォ!?」
「こら喧嘩すんな!ほら、とっととはじめっぞ!」
朝野も準備しろ、と言われて曖昧に頷く。準備っつっても俺こっちの世界に来た時からすでにジャージだから上脱ぐだけなんだけどね。準備もくそもねえよ。このジャージどうしよう。いいやそこらへん置いておこう。
カントクからゼッケンをもらい、俺は慌てて整列に並んだのだった。