今まで色々な事があった気がする。海に行ったり、屋上で紐無しバンジーしたり、教師に目をつけられたりと散々な目に合ったりもした。それも、まあ、楽しかったのは楽しかったから別にいい筈だ。

「でも、これは無いわ…」

「何か言った?いっちんー」

「言っとらん」

「うーん、いっちんの喋り方変だから分かんないし」

身長208cm(さっき聞いた)の巨漢が後輩なんて信じられないと言わんばかりに俺は息を吐く。まだ暖かい筈のこの季節。俺は秋田に上陸してしまいました。話を聞けば、俺を迎えに来た紫原敦くんは自身が所属するバスケ部の主将と監督に頼まれて俺を迎えに来たらしい。

遠い所からわざわざすみませんと謝れば、お詫びの品であるまいう棒を買わされた。……まいう棒って何やねん。

まあ、思わぬ出費は日頃からある事だからあまり気には止めず、俺は紫原敦くんがのそのそと歩く後ろをそろそろと追う。交通費は紫原敦くんが監督に渡されたらしい封筒から顔を出す諭吉が数枚。学校に到着したら早々に頭を下げないとなと意気込んだ俺は、これから訪れる悪夢に気付かなかった。






辿り着いた学校は、星月学園とはまた違った気品や上品さがあって思わず引き攣った俺は間違ってないだろう。「こっちに確か室ちんが…多分」なんて未だにまいう棒を頬張りながら歩く紫原くん(呼び方これでええやろ)を追ったが、…哀しきかな。コンパスの長さが違い過ぎる。

「いっちんのろまー」

「(我慢や俺…)ん、堪忍」

関西人はせっかちだ。だからこそ歩くスピードは常人より速いし、信号無視だってざらにある。しかしそれを超越する程に彼の脚は長いのだ。人間恐い。

そして、彼の言う室ちんと言う存在を現在探しているらしく、見当たらない事に苛立ちを感じ始めた紫原くんが手元にあったスナック菓子をやけ食いし出した。最近の若者ってこんな感じなのかと不思議に思いながらも「いっちんにもあげる」と言っては差し出されたスナック菓子を頬張る。

「(油っこい………)」

咀嚼を続けながら、ジャージのポケットに入っていたティッシュで油を拭き取り、不意に視界に長い髪が靡いた。

バッと振り返れば、女子達が笑い合いながら歩いていて、「……共学?」と小さく紫原くんに問えば、彼は「女子校だと思ったの〜?」とよく分からない返答を寄越してきた。完全に抜かったんじゃないのか、これは。

いつもなら肩を叩いてくれる美月や、「女子だ!女子だ!」と騒ぐ白夜、気怠げに笑うだけで何のフォローもしない柚月がいるのになと頭を掻きながら思う。例え視界の端で泣き黒子が似合うお兄さんに頭を撫でられる紫原くんが面白くても、それを上回るぐらいに俺は混乱しているのだ。

「……ぼっち確定やん」

遠くから俺を笑う白夜の声が耳に響いた。


秋田上陸→陽泉到着の凌




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