黄色い男について行く事数分。何故か俺の周り(正確に言うと黄色い男の周り)を数多の女の子が囲んでいた。……何でだ。
「あ、すみません!夜久先輩、ちょっと時間貰っていいっスか!?」
「……おお」
頷いた俺に「じゃあ、ちょっと待ってて下さいねー!」と言いながら女の子の群れに飛び込んだ奴を見て俺は思った。あいつ苦手だ。何かナルシスト臭が半端ない。
「(今までに関わった事の無い人種だな、あれ)」
それに、今気付いたけど、俺は美月達とさっきまでバスケをしていたから汗臭い訳で。周りの女の子達に何を言われるか分からない。男子校だったから、女の子とあんまり関わらないから妙に変な感じだ。
そんな俺の心境に気付かず、老若男女問わずにまでとは行かなくとも人気なのか、あの黄色い男の周りはどんどん人が溢れかえる。ちょっとじゃねぇだろ、かなり待たなきゃ駄目だろこれは。
キャーキャー騒ぐ女の子達を眺めながらも、俺は小さな女の子までもが黄色い男の所に行こうとするのを見つけて戦慄した。……月子もああなるのか。いや、有り得ないだろ。やめてくれ。
「りょーた、くん!」
しかし女の子の必死な姿がまさしく、俺の月子そっくりで泣きそうだ。俺の方がイケメンだろとか、そうじゃなくて(いや寧ろ俺の方がイケメンだろうけど)……何だかなあ。
ひとまず俺は女の子を肩車して、女の子の荒波を掻き分ける。それから中心にいた黄色い男の肩に手を置いて、今更ながらに世間受けのいい笑顔を浮かべた。
「りょーたくん、この子にサインしてやってくれない?」
そもそも名前は覚えてないから女の子が言っていた『りょーたくん』呼びで俺は奴に笑いかける。俺の肩に乗ってる女の子に気付いた『りょーたくん』は、「いいっスよ!」と屈託の無い笑顔を浮かべては、女の子が持っていた本にサインした。………そもそも何でサイン?
女の子を下ろして「ありがとうお兄ちゃん!」と言われた俺は、その子を月子に重ねながらも手を振る。それから感じた視線に辺りを見渡せば、
「あのお兄さんもイケメンじゃない?」
「黄瀬くんと同じモデルかなあ」
「声かけてみる?」
ボソボソと話す女の子の視線の先には俺と『りょーたくん』。
「お前って名前、黄瀬なんだな」
「え」
「まあ、覚える必要も無さそうだしいっか」
「酷いっスよ!覚えて下さいっス!!」
思わず口から零れたそれを拾ったらしい奴は、俺の腕を掴んでダーッと涙を流し始めた。ええい、鬱陶しい。
「じゃあ、早く案内してくんね?」
「さっきの笑顔を浮かべてた人とは思えないっス…」
「早く行くぞ、ナル瀬」
「ナルシストな黄瀬の略だったら怒るっスよ」
「ナルシストでバカそうで能無しっぽい黄瀬の略だ。残念だったな」
いつの間にか、女の子の群れはいなくなっていた。
海常までの道中にて