ボールを俺にパスしようとした氷室くんに頼むからやめてくれと言いたくなるのを堪えながら、俺は姿勢を低くした。ニコリでは無く、ニヤリ。会って数十分、もしくは一時間弱しか経っていない彼の笑顔は狩人のそれである。

「(怖すぎるやろ……!?)」

ゴクリと息を飲んでから、俺も氷室くんを見据える。正直言えば、帰りたい。しかし、だ。氷室くんが此方に向かって来ようとした瞬間、開かれた扉から体育館に入ってきた彼等にそれは阻まれた。

「何をしてるんじゃ、お前さん達は!?」

秋田県民らしい訛り具合に一種の感動を振り返ればゴリラが居た。ゴリラだ。超ゴリラだ。濃い顔は劉くんや紫原くんとは違う珍妙な雰囲気が何だか哀れな感じがして俺は目を細める。

人はきっとこれを同情だと言うんだろう。…一瞬だけ、女顔でも良かったかなと思えた。一瞬だけど。

「──…いえ、少し力が知りたくて」

てへぺろ、とでも音が付きそうな勢いで氷室くんはゴリラに向かって笑う。ゴリラは氷室くんの言葉に納得したかのように頷いて、再度俺を見やる。果てしなく高身長な姿に色んな意味で涙腺が決壊しそうだと思いながら、俺はひとまず挨拶をしようと手を差し出した。

「初めまして。今度転校?する事になった一条言います」
「一条、さん…」
「え、『さん』…?」
「わしと付き合うてくれんか!?」
「はい却下あああああ!!!」

嫌な予感的中した。超的中した!どうしようこのゴリラ超怖い!!

男に告白されるなんて正直嫌なぐらいに慣れてはいる。しかしだ。相手が2mを優に超えてるとどうだ?恐怖で足が竦んで動けないじゃあないか。ふざけんな。俺への当てつけか畜生!!

ごつい顔を赤く染めた主将らしき人物は俺の両の手を掴んで迫り寄る。荒い。息が荒いですだから助けて下さい。後退りをしながらどうしようかと思考に飲まれていれば、ドンッと何かにぶつかった。目前に迫るゴリラから視線を逸らし、後ろを振り返れば、

「何だ。まだ何か用でもあるのか?」

ツンとした表情で俺を見つめる見目麗しい女性(此処大事!)が居ました。

凌 は 目の前 が 真っ暗に なった !



短くてごめんなさい…



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