「それじゃ、スタート!」
ピーッと笛が鳴り、ボールが空高く放られた。それと同時に髪が赤黒い大きい奴(えーと確か火神?)が高く高く跳びあがって、ババッとボールを奪う。
「わあ、高いな」
呆気にとられていると日向に「ボケッとしてんな、朝野!」と叱られてしまった。ごめんなさい。でもあれは人間技じゃないよ日向!むっちゃ高かったよ!?
「黒子!」
火神が何もないところへパス。え、どうするんだろう、と思いきやそこには黒子がいて、火神の放ったパスを難なくキャッチ…したかと思いきやパパッ、とまるで手品のようにゴール下にいた坊主くん(河原だったか)にボールをまわす。河原はおっしゃー!と気合十分にゴールを決めた。
「お、おお…!?」
今までに見たことないタイプのバスケだ。すごいな、こんなバスケもあるのか、と妙に感心してしまった。特に、黒子だ。自分の影の薄さを利用してパスをまわすなんて、すごい。どうしても自分で決めたくてパス欲しさに目立ってパスもらって身長足りなくてダンク決められずに結局リバウンドで取られる幼馴染のプレイとは段違いである。
「黒子はパスのスペシャリストなんだな」
ぼそりと呟くと、近くに居た伊月が「え!?」みたいな顔をしてこちらを見た。あれ!?俺なんか間違ったこと言ったかな!?
「な…なにかな?」
「あ、いや、朝野、もしかして黒子に気付いてたの?」
「え、気付くでしょ普通」
「え」
「え?」
嘘だろ、慣れてきた俺ですら気付かなかったんだけど…と衝撃を受けている伊月の思いなど露知らず、俺はハイタッチをかます一年生ズを見た。青春だなあいいなあなんて、ほのぼの思う反面負けたくないなあという闘争心がひっそりと芽生えつつある。
「なあ日向」
「おーどうした朝野ー」
「俺、こう見えて負けず嫌いでさ」
「おー」
「だから、力の限り頑張るわ」
「お、おお…?」
よーし、頑張ろう。あいつらもいないし、頑張るぞー、おー。
1人でガッツをいれて、俺はボールを見据えた。
朝野が「頑張る」と言っていたのでとりあえずボールをまわしたがありゃバケモンだ。
ドライブさせりゃ誰よりもはえーし外角からのシュートも外さず決めるし3Pも入る。速攻やリバウンドもがんがん取るから点がはいるはいる。ただ火神と黒子の連携プレイにはやはり及ばなくて、僅差で負けてしまった。それでも朝野はやけに晴れ晴れとした顔でスコアボードを眺めている。ああなんて爽やかなやつなんだろう、朝野。
「バスケって楽しいなあ」
にこりと微笑みながら呟いた朝野を見て、その場に居た誰もがその清涼感にあてられた、と俺は思った。
「あんたすげぇな…です!」
「ええ。僕もすごいと思いました」
「えー、いやいや俺なんか全然大したこと…」
「大したことあるわああああ!」
「おわあ!?」
火神と黒子に褒められていやいやと謙遜していた朝野に今まで黙って震えていたカントクがぐわあっと割り込んでいった。本気で驚いてる朝野。あ、尻もちついた。
「朝野くん!あなた何者なの!?」
「え、ええ?」
「ドライブは速いし外角シュートもよく入るし3Pは的確だし下手すりゃ日向くんより上手いし!」
「カントクー!」
やばい。俺の座が危うい。
俺の悲痛の声も構わずカントクは再び朝野を頭のテッペンから爪先まで見つめると、よし!と何かを決めたように朝野を見据えた。ハラハラしながら事を見守る俺。
「朝野くんはSFね」
「SFかー」
そういえばよくやってたわーあははと笑う朝野にカントクが「おめーやっぱりバスケ経験あんじゃねーかすっとボケやがって!」と一発叩いていた。容赦ないぜカントク…!そして何故隠してバスケ経験ないとか言ったんだ朝野!俺達を騙したのか!?
「や、や、そうじゃなくて!俺はただ部活の助っ人でバスケしたことあるぐらいで…!そこでよくSFって言われてたから…!」
「助っ人でなんでそのレベルの筋肉がつくのよー!?」
「えーっと、それはその…」
言葉を詰まらせた朝野に皆が次の言葉を待つ。沈黙の空間に耐えきれなくなったのか、朝野は顔を真っ赤にさせながら、
「前の学校で、ちょっと…色々やらかしてて…」
「!!?」
一同がぽかんとする。こんな爽やかなやつがやらかす!?一体何を!?こいつ実は不良!?
「昔の日向みたいなタイプか」
「口を慎め伊月」
「あいたッ」
俺の黒歴史をほじくり返そうとしたPGを一発殴ったあと、俺は尻もちついたままの朝野に近づいて手を差し伸べた。
「これからよろしくな、うちのSF」
「お、おお…!」
朝野は、それはそれは爽やかな笑顔で俺の手を掴んだ。