春。
春は曙と、かの有名な古典的女流作家は唱えた。しかし例にあげといてなんだが、曙ってなんだろう。あとで調べてみるとしよう。
朝食のパンを牛乳で流し込んで、俺はカバンを持って玄関に向かった。そろそろ入学式が始まる時間だ。
「いってきまー…」
「美月ー!そろそろ入学式行こーぜー!」
「…………」
ああすっかり忘れていた。
俺は疫病神と同じ高校に進学したんだった。
「コルァ!誰が疫病神か!」
「人の思考を勝手に覗くんじゃない」
ぎゃあぎゃあと朝から人の部屋に勝手に上がり込んで騒ぎ立てるのは疫病神にして幼馴染みの日立白夜。こいつとは誕生日が1日違いなため、生まれてからずっと一緒だ。
「人生の汚点だ」
「へ?なにが?」
「俺がお前と出会ったことが」
「おいおいそんなこと言うなよ美月ー!本当は俺のこと大好きな癖に!」
ああうぜえ。まあもう慣れたけど。
白夜のいいところはどんなに酷いことを言われても屈しないところだと思う。不屈の精神。
「ほらほら、急がないと遅刻すんぞ美月!」
「ああ、そうだな」
急いで部屋を出る。星月学園の制服をまとった白夜が、寮の階段のスロープを器用に滑っていく。そして転ぶ。
俺はその様子を眺めながら、これから始まる高校生活に密かに心躍らせていた。