言い出したのは誰だったか、なんて明白で。それに便乗したのが愉快犯の柚月。「別にこれぐらい付き合ってやれよ」なんてまるで俺達が嫌がってるような口振りに受け取った便箋を睨んでどうしようかと考えていたら、「書けたかー!?」なんて大きな声が図書館一帯に響いた。
「白夜、うるさいで」
「めーんごっ。…で、書けた?」
「俺はな。でも美月がまだ」
「自分に書く手紙でそんなに悩むかよー」
「美月らしいやろ」
同じ学科の奴がやってたから。なんて理由で俺達3人を巻き込んだ白夜の奔放さには敵わない。何だかんだ促されて唆されてやってる事に変わらない。自分から動けないからやってるとも言える。物事の火付け役は全てこいつだ。
「…未来の自分になんて書けないって」
「『元気にしてますか?』とかでもええんやで。俺はそんな感じ」
「俺も俺もー!」
机に顎を預けて女の子向けの便箋に眉を顰めた美月は真面目だ。指先でくるくるとペンを器用に回しながらも気が乗らない様子に僅かに俺も首を捻る。視界に収まるだけで騒がしいを体現する男は、俺達の向かいに座っては尖らせた唇に鉛筆を乗せた。きっと直ぐに飽きるだろうなと既に封を閉じた俺のそれは目の前の奴に預けるとして、だ。
「………んー…」
「貸して」
「え、あ、凌?」
くるくる、くるくる。
骨張った指先で回り続けるペンをひょいと取り上げ、未だ字が書かれていない便箋を奪う。不思議そうに身を起こした美月に代わって『拝啓、未来の朝野美月様へ』と書き出し、それに続いて記した内容を覗き込んだ白夜は愉快だと言いたげに笑い声をあげた。
「『隣のブラックホールは健在ですか。』って何だよ!宇宙飛行士になってるのは決定事項か!面白いな凌〜」
「せやろ。でもこれが一番未来の美月に聞きたくてな。…美月も気になるやろ?」
「え、……このブラックホールってアレですかね、凌さん」
「アレってそりゃブラックホールは宇宙にあるブラックホールしか無いに決まってるだろ?美月はバカだなぁ」
「はは、そう言う事にはなるな。アレやで」
きょとんと目を瞬かせた美月に笑い返せば小さな溜め息と共に手からペンを取られた。「どうせ見るのは未来の俺とお前らだもんなぁ。何真面目に考えてたんだろ……」不思議そうに首を傾げて筆を走らせる彼の邪魔をしようと机に片頬を乗せ寄り目になった白夜のまるい頭を叩く。
「イッッッッテェ!!!」
あ、こら。司書さんに怒られる。
「あ、お前らこんなところに居たの。探したんだけど」
「ゆっちゃんじゃーん、遅いぞ!」
「よお、びゃっくん。来い!ってだけのメールじゃ流石に俺も分かんねえよ、そう怒るなって」
白夜の頭に腕を載せて笑う男の登場に気付いていたのは俺だけだろう。驚きながらも嬉しそうにニコニコと笑う白夜に対して、「いやいやいや、その呼び方なに。気持ち悪い」視線を紙に向けたまま呟いた美月。「「その場のノリ」」と一語一句違わずに返した2人に賞賛の拍手を送った。今の凄いな。
「そこ拍手要らないって。……聞いてる?おーい、凌?」
「聞いてない聞いてない。未来の自分への手紙に行き詰まってたらしい美月さーん?」
「お前は書いたのかよ」
「完璧」
「妹さん関連の事だろ」
「まあな」
「凌はなんて書いたんだ?」
「『白夜達とは友達で居てますか』って書いたなぁ」
「……それ恥ずかしくね?」
「別に?」
「うっ、ん、んんん…そっか!そうだよな!!」
唸り声を上げて大声を出した白夜の所為で司書さんに図書館を追い出されるのはこの数分後。「悪いのは俺じゃない!」と主張してる白夜に同意した美月達と訳が分からず首を傾げる俺が廊下で立ち尽くすのはもう十分後である。