それは、らしく例えるなら彼らが「マズイ」と言いながら、彼女の淹れたお茶を飲んでいる光景。その温かさは、彼らを知ってこそ、より滲み出てくるものだと、この数ヶ月を過ごして実感した。
孤独感に溢れグラグラで脆そうに感じる個々が寄り合うと、こうも温かくて強くなるのだ。絆という言葉がぴったりで、それは揺るぎない。数ヶ月間、わたしが生徒会を観察してきた感想である。白銀先輩から預かった写真は、それを語っていた。
風鈴が風に靡いてチリチリンと鳴る。


「いつの間にこんなの撮ってたんだよ、桜士郎のヤツ」
「でもビカッてならなかったぞ?しかも目の前は川だったのだ〜ぬぬぬ」
「その謎さえなければいい写真なんですけどねぇ」
「オバケか!?オバケはヤだよ、書記ー」
「だ、大丈夫だよ翼くん」
「コラ翼!月子にひっつくなっつーの!」

浮かび上がる無数の光を感嘆の表情で見上げる天羽くん。その後ろで青空先輩と夜久先輩と一樹先輩が微笑んでいる。夏の、とある一夜。生徒会のメンバーで浴衣を着て蛍を眺めている写真だった。盗み撮りですよね、コレ?聞いても白銀先輩は「どうだろうねぇ」くひひ、と笑うばかりで教えてくれなかった。

「俺、蛍みたことなかったから、この時すっげー感動したんだ」

初めこそ、よそよそしかった天羽くんは、白銀先輩と此処へ通ううちに打ち解けてくれた。今ではたまにラボに招待してくれるくらいに(できれば丁重にお断りしたいけど)。彼は明るく振る舞いながら、すぐに自分の殻に閉じ籠ってなかなか心をひらかない人。

「僕もあんなに沢山見たのは初めてでしたよ」
「綺麗だったよね。幻想世界みたいだった」
「そうですね。神秘的でしたね」

青空先輩は優しくて(でも怒らせたらダメな人、というのも学んだ)、けれど暗闇を内に秘め、人を拒絶し根っこにある優しささえ仮面に見せてしまう人。夜久先輩は同じ天文科コースで顔合わせをしたことがあってすぐに仲良くなった。明るくて優しくて可愛くて努力家でたまにドジで、誰よりまっすぐで、頑張りすぎる人。

「おまえらー?連れてってやった父ちゃんに感謝しろよー?」
「蛍は偶然でしたけどね」
「そーだぞ!ぬいぬいは花火大会を一週間間違えただけだろ〜!このオヤジ〜」
「なんだと翼ァ」


そして真っ先に白銀先輩に紹介されたのがこの一樹先輩。生徒会長という肩書きで随分横暴に振る舞っていても、ちゃんと生徒を統率して立派にまとめあげている。その横暴と隣り合わせにある繊細さを悟られまいと威風堂々とトップに君臨する。わたしの人間観察の感想。

「ぬ。俺間違ったこと言ってないぬーん!あっこの書記変な顔してる!ぬははは!」
「どれ?わ、ほんとだヤダ!それ貸して翼くん!」
「いやだよー欲しかったらこっちまでおーいで」
「翼くん。月子さんを困らせないでください」
「そらそらも見ればわかるのだ。ほら」
「翼くん!」
「…おや。これは…可愛いですね。ふふ」
「颯斗くんまで〜」

此処は本当に温かい。此処だけじゃなくて、夜久先輩の周りはそうだ。幼なじみさんたちがいる二年天文科、弓道部、保健室に集まる先生方、星月学園一忙しいマドンナはすごく大事にされている。それは何故なのか、彼女を見ていればよくわかった。溢れそうなほどの愛情。グラグラで脆い彼らを支えているのは紛れ間なく彼女だ。観察の収穫はわたしには眩しすぎて、思わず目を細めた。眩さと、少しの嫉妬に似た羨み。そっと視線をあげる。最初に映ったその横顔の優しさが胸に染み込んでくる。


「一樹先輩?どうしたんですか、静かですね」
「そうか?」
「はい」
「ま、大人だからな。俺」
「ハイハイ」

「家族」をそっと慈しむその目も、わたしは見逃していませんよ。人間観察は趣味です。

「なぁ。コーヒーいれてくれよ。熱いの」
「え、わたしがですか。暑いのに熱いの?」
「いつも勝手やってんだから知ってるだろ色々。暑い夏こそ熱いコーヒーだ」
「月子先輩のが好きなんじゃ」
「アイツのは不味い」
「でも好きなんでしょ?」
「そうだな。好きかな」
「…大切ですか」
「大切だよ。颯斗も翼も」
「夜久先輩は」
「もちろん。桜士郎もお前もな」
「ありがとうございます」

絶対的な家族の絆の直ぐ外側にいられるなら嬉しい。今、この生徒会室の光景を写真におさめたらどんなだろう。わたしはどんな顔をしているだろう。
コーヒーを淹れにポットの台へ回れ右した身体がそこで止まった。温かい、手だ。わたしの頭に乗っかって、その手の親指がじりじりと髪を撫でる。

「来年は一緒にみにいこうな、蛍」

もう一度回れ右したら、彼はどんな顔をしているだろう。でもそんなことしたらきっと、くしゃくしゃの顔が見られてしまう。なんでバレてしまったんだろう。その絆が魅力的すぎていけない。

「お前も俺に会いたいだろ」
「なんでですか」
「俺はお前に会いたいよ?卒業しても」

星詠みの力を持つ彼は心まで見透かしてしまっているのか、厄介でいけない。絆も彼も総て欲しいだなんて、嘘ですよ?そういうことにしておいてください。きこえてくる小さな笑い声が愛しいだなんて、嘘です。





end.

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