扇風機の羽の回る音が、無音の部屋に静かに響く。そよそよ届く弱い風は生ぬるいけど心地いい。
と、思ってたら突然風が途切れた。何事かと見ると向かいに座る男が、扇風機の首を自分に向けてひとりじめしている。無言でそれを私のほうに取り返して机に視線を落とすと、また風が途切れる。また取り返す。また取られる。また取り…


「ちょっと」
「なんだよ」
「さっきから何回やってると思ってんのこのやりとり」
「なにが」
「ひとりじめしないでよ!扇風機!」
「うるせーココは俺の部屋なんだから文句言うな!」
「無理矢理来させたくせに!」


同じ町内に住む哉太。高校入ってからは普段は寮生活の哉太。その哉太が夏休みで帰ってきたらしいってお母さんに聞いたのは昨日のこと。そしたら今朝さっそく電話がかかってきたのだ。


「お前も宿題とかあるだろ。一緒にやろーぜ」
「いいよ。じゃあウチ来る?」
「外出るの暑いから嫌なんだよな。お前が来て」
「私だって暑いからヤダ。哉太が来てよ」
「お前が来い」
「哉太が来い」
「おまえ」
「哉太」
「おまえ!」
「哉太!」


そんな言い合いの結果、電話口でジャンケン(声で)して、負けてしまった私が哉太の家に来たわけだけど。クーラー壊れてるなら壊れてるって言っといてよ、最初から!扇風機を掴んで離さない哉太を睨む。


「離せ〜ばかなた!」
「バカって言うほうがバカなんだよばーか」
「言ったじゃん今!」


睨み合いながら扇風機を奪い合うけど、哉太は言うまでもなく男の子なわけで、さすがに力では勝てない。こんなことやってたら余計暑くなるってことに汗だくになってからようやく気づいて、私は扇風機から手を離した。


「もーいいや、こうしよ」
「お!?」


向かいに座る哉太の隣までのそのそ移動して、ぴったりくっついて座った。ほら、これでふたりともに風が当たる。


「…くっつきすぎじゃね?」
「くっつかないと風当たんないもん」
「そりゃそーだけどよ」
「イヤなの?」
「そんなわけなっ…いやなんでもねーけど!」


誤魔化せてないし、顔赤いし。いくつになっても可愛いヤツだなあ。


「汗くさくない?私」
「別に、全然」
「暑いよねホント」
「そーだな」
「アイスでも買いにいく?」
「…もーちょっと、このまま」


私にもたれかかる哉太の重みが増す。香水だろうか、爽やかな哉太のにおいが私の中を巡る。
扇風機の控えめな風と、重なりあう蝉の声と、窓から見える真っ青な空と、隣には哉太。幸せってこういうこと?バレないように小さく笑って、まだ少し赤いその頬に唇を寄せた。





end.

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