「直獅〜」
「こら!先生をつけろ!」
「いいじゃん、他にも呼んでるヤツいるんだし」





私がそう言えば、彼はうぐっ、と声を詰まらせた。今さら直獅のことを陽日先生〜とか直獅先生〜なんて呼べるはずがない。そんな私と比べたら月子ちゃんは出来た人間で、誰からも好かれている。私もそんな月子ちゃんを好きな人間のうちの一人にすぎないのだけれど。月子ちゃんはよく気が付くし、誰に対しても優しい。そしてちょっと天然で鈍感なところがまた女の子らしくて可愛いのだ。私とは正反対。先生からの評判もいいし。この学園には私と月子ちゃん以外の女子なんていないのだから、ついつい比べてしまうのが人間の性というもので。
直獅はまるで私たちと同じ高校生のような人だ。いや、むしろ中学生というか、いやいや小学生と言ってもいいかもしれない。こんなこと直獅に言った日には私への夏休みの宿題が倍になることぐらい簡単に想像がつくので絶対に言ってやらないけど。





「お前は実家に帰省しないのか?」
「うん、部活もあるし」
「ああ!サッカー部のマネージャーだったよな?」
「そうだよ。粟田と梨本がいつも馬鹿やってる」





直獅に会いたがってるよ、なんて言えば、彼は少し照れたように後ろ頭を掻いて「俺はいつでも職員室に居るんだから、暇な時に来いって伝えとけ!」と言いつつ私の頭をぐりぐりと撫でる。直獅の所為でぐしゃぐしゃになった髪の毛を直しながらぶうぶうと文句を垂れた。さっきまで部活に行っていたから、髪の毛はもとからぐちゃぐちゃで身体も汗まみれで臭いんだけど。(一応汗拭きシートも制汗剤も使っておいたけれどこの暑さではすぐに汗をかいてしまう)直獅の額にもうっすらと汗が見える。





「直獅、汗かいてる」
「ん?あ〜暑いからなあ」
「タオル貸したげるよ」
「いやいや悪いだろ!」
「いいよ、これ予備に持ってきたやつだし、使ってないもん」
「そうか…?じゃあ遠慮なく…洗って返すからな!」





その一言にこくんと頷いた。きっと直獅は明後日にでもこのタオルを持ってうちのグラウンドを訪れるだろう。そうして私にタオルを返すのだ。それを想像しただけでちょっとだけにやけてしまう。ふふ、と笑みを零せば、直獅はきょとんとした顔で「どうかしたか?」と私の顔を覗く。





「なんでもないよ!」
「そうか?ならいいんだけど!」
「ねえ直獅!アイス奢って!」
「は!?」
「タオル貸してあげたじゃん!そのお礼で!ねっ?」
「…くっそ〜…仕方がない…この陽日直獅大先生が奢ってやる!!」
「やったー!直獅だいすきっ!」





私がそう言って直獅に飛びつけば、直獅はまた顔を真っ赤にして「は、離れろおおお!!!誤解されたらどうするんだあああ」なんて叫んでいた。その光景をたまたま通りがかった梨本と粟田に見られて「お熱いですな〜」「ですな〜」なんて声をかけられ、二人して顔を真っ赤にするのはまた別の話。





end.

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