何度か見かけただけなのだが、いつもそうなのだろうと軽く予想はついた。
(あの、緑間君の相方するんですんもんね)
秀徳戦、偶然居合わせた店、合宿先。気難しい相方の背中をさりげなく押すのは陰で支える高尾くんらしかった。眉間にしわを寄せながらも人の輪の中で緑間君が表情が綻ばせるのを見て、高尾君は満足そうに「ったく真ちゃんはしょうがねえなあ」と笑う。少し寂しそうに、少し悲しそうに。

高尾君

思わず、声が出ていた。瞬間、ハッとしてこちらを見ると照れ隠しのように君はまた笑う。「なァんだよ、黒子、驚かせんなって」軽く笑って、余計なこと言われる前に自分から話しかけて、お調子者になって、元ライバルの天才エースの影として、友人として、なにより一番の理解者として横に居続ける。

それで隠しおおせた気ですか。

口笛を一つ吹いて、秀徳バスケ部員に囲まれた緑間君を眺めるように、ゆっくりと僕の横に並ぶ。練習での対抗試合で、誠凛を訪れており秀徳生は皆ハイになっているようだった。その分、横に立つ高尾君の静けさはなんだか予想通りでもあり、意外でもあった。目立って、表立って、成功して褒めそやされたい、自尊心を宥めすかして、どうサポートに徹するか。まだ高校生でしかない自分が、どうしてエースへの道を憧れずにいられるだろうか。バスケが好きであればある程、尚更。



「こえーな、お見通しってか。さすが同じ影、だな」
「…無理してテンションあげなくてもいいですよ」

同じなら尚更、そう言うと高尾君はくつくつと肩を震わせて笑った。
「別に真ちゃんのお守りで疲れた―なんて思ってないぜ?」
「別にお守り云々じゃないですけど、ときには全体を見なくていいと思いますよ」
高尾君の目が笑うのをやめてハタと、僕を見据える。
「試合中だけでいいんじゃないですか、目、つかうの」
真っ黒だと思っていた瞳は少し明るくて、その中から僕が見つめ返していた。
「君がそんな風なら、すぐ僕はミスディレクションできちゃいますね」
少し笑って言って、やっと目を伏せる。見られてない時は見つめられるのに、不思議とその視線には不可視の力みたいなものがあるようで、ぎりぎりと胸が締まった。高尾君は笑う気配もなく、手元のシェイクを見遣ると、僕はどんな表情をしているのか確かめる勇気もなくて顔を上げられなかった。
「お昼食べ終わったんですか?もうすぐ練習試合始まっちゃいますよ」
それだけ言って部室に帰ろうと背を向ける、と、
「おい、言い逃げすんのか」
後ろから腕を回されて、気がつけばすぐ傍に高尾君の顔があった。そして完全に逃げ出せないようにがっちりと腕を捕まえられる。持っていたシェイクが、握力に潰されてしまうほどに強く。

「全員に気を配るのも、全範囲を見てんのも」



「すぐ消えちまう誰かさんを見つけるためって知ってたか?」