部活で掲げられている目標も目標だけに、勉強にも力が入っているのが帝光中学。
(あつい、)
 夏休み前の期末試験では、いつも通りの可でも不可でもないような、まあまあな成績だったはずなのに、レベル順に集められて夏休み中の補講が実施されている。
(国語と社会は免れたんですが…)
 顔を合わせたことがない面子ばかりが揃う教室で居心地悪そうに、どの生徒もペンを動かしていた。ふわりとカーテンが揺れて、風が舞いこむと目の前の席に座る黄瀬くんの髪がきらきらした。左耳のピアスも一層きらりと光っている。
(本当にモデルなんですね)
 数学の補講で唯一黄瀬くんと同じクラスになり、席も前後だった。「黒子っちと同じクラスなんてオレうれしいッス!」ともし彼が犬だったら尻尾が振り千切れるほどに振っているだろう笑顔で色々一人で喋り出して煩かった。
「黄瀬君うるさいです」
 教師が喋り始めたから一言でばっさり彼の言葉をきるとしゅんとなってしまって、その寂しそうな顔が僕にちょっとした罪悪感とちょっとした支配欲を呼び起こさせて、ごちゃまぜになって、その場で頭を抱えて丸まりたかったけれど、欲求を抑えて無言で席に座った。
 部活中や休み時間に会うことは多くても、なかなか静かな彼を見ることはなくて、大概は女の子に囲まれているか、クラスメイトの輪の中心にいるか、部活中でもみんなから構われて笑っているのが黄瀬君。”っち”を付けて読んでくれるだけ、信頼されてきたんだなと感じるものの、彼が僕を呼びとめるまでは話しかけたりしない。中心にいる彼を引っ張り出すのも気が引ける上に、なんだか僕が黄瀬君を独り占めしたい現れの様で
嫌だ。したいけれど。
 真剣に問題集を解く彼の背中をここぞと凝視してみた。どちらかと言えば入部当初は細身だった彼も、青峰君に憧れるだけあって最近ではガッシリした筋肉になっているようだった。羨ましい、なんては絶対に口にしないけれど、羨ましい。黄瀬君に憧れられる青峰君が。
 ふいにこっそりと振りかえって、いたずらに笑うと、ノートの端を千切って渡してきた。
“このあとマジバ行こッス!暑い時はシェイクっすよね!”
 僕は暑くなくたってバニラシェイクだ馬鹿涼太、と心の中で返しながら、肯いて見せると、こっそり振りかえっていたのが先生に気づかれて黄瀬君が怒鳴られた。
 燦々と降り注ぐ太陽の光が、もっと長く続けばいい。黄瀬君の髪がきらきらするが好きだと、そう思った。