(黒子っちの色だ)
 ストバスのコートから見上げた空は、時間帯のせいか高く澄んでいて突き抜ける透明な蒼だった。まだ夏の太陽にさらされる前の、熱を帯びない色だ。きれい。中学生だからモデルの仕事とと言っても夜まで働けないはずだが、売れっ子のカメラマン起用に執念を燃やす編集者によって法律なんかくそくらえ、で午前5時30分が帰宅途中の今の時間だ。
 (バスケしたい)
 何度も着替えさせられて、インタビューの編集まで一緒にやって、お得意の笑顔ふりまいてきたけれど、さすがに疲労感を感じる。「家まで送る」と言ってくれた人には途中で降ろしてもらって、そこから歩いて帰ることにした。彼女いないのとか、食べ物何が好きとか五月蠅くて、噎せ返る様な香水で満たされた彼女の車内から早く降りたかったし、なにより家を覚えられたくなかった。
 どうしてあんなにお菓子みたいに濃くて甘い香水や制汗剤を振りまくるんだろう。本人たちは可愛いと思ってやってるし、その上、こっちがそういった女の子らしさに欲情すると信じて疑いもしないのは何故なんだろう。毒々しく甘い匂いと過信をまとって見上げてくる彼女達は可哀想で可愛いけれど、好きじゃない。
 思い出すと肺にまだ彼女の香りが貼り付いているような気がして、空を見上げながら深呼吸した。寝不足の状態で部活に出ても、主将に怒られるため今日は休もうと思っていた。
 (寝不足だけど)
 (黒子っちに会いたい)
 帰り道でストバスのコートにボールが転がっているのを見て堪らなくなったのだってきっとそのせいなのだ。部活に行けば会える。会える。みんなは影が薄いだとか、存在感ないなんて言うけれど、彼の不思議な透明感がオレは堪らなく好きだ。特に今日みたいな日は会うと浄化される気がする。クラスを訪ねていけば会えるだろうが、主将に怒られる前に、部活に出られる状態ではないことにを気づかれてしまうかもしれない。黒子は結構そういうことを敏感に感じ取る。それに、会うだけじゃなくて一緒にバスケをしたい。単純にそう思った。
 (行くしかないっスね)
 決心すると、どこに残っていたのかむくむくと力が湧いてきた。コートを離れてさっさと帰ろう。澄んだ空の色が変わらないうちに。