ちょっと目ぇ使いすぎちゃったかな、独り言にしておきたいのか微妙な音量で呟くと、残夏は帰ってくるなりベッドに潜り込んだ。ふかふかの布団は彼よりも厚みがあって、埋もれるように寝ている。細いサラサラの髪が力なく広がって、不安が翳りとなってジワリと増した。大丈夫?、なんてペラペラに薄い言葉はかけたくなくて、空気さえも動かさないようにそっと傍に寄る。すぐに、ふわっと布団が持ち上げられてポッカリと隙間ができた。

「名前たん、おーいで」

「わっ、残夏」

もうさっさと眠りについてしまったのかと思ったから、驚いて少し後ろに飛びのいた。そんな小心を笑ってきゅっと残夏の目が細くなる。ああもう、又やられたな。そう、むっとしている私にさらに布団を上げて見せる。どうかしたら私より細い腕なのに、手の平は大きくて、やっぱり男の人なんだなあ、なんて一瞬のうちに考えてしまう。

「こないのー?それとも僕にどきどきしてるー?」

からかってそう言うから「あーあーもう、分かった!」と遮ってするりと布団に入りこんだ。分かっていたように残夏の腕と布団に二重に包み込まれる。残夏の、甘い匂いが近くて、自分の頬の温度が上がるのが分かる。体温が低い彼に、熱を分けたくて鎖骨あたりに顔を埋める。いつも、このまま寿命も、生命力も分け与えたいと思う。信じてなんかないくせに、カミサマにお願いするのだ。こんな時だけ、都合がよすぎるかもしれない。

「名前、朝までこのまま、ね」

私の頭に顎を載せて呟くから、直接頭の中に響いてくるようだった。ほんの少し肯いてみせた。妙に部屋が明るいなと思えば、薄いレースだけで、カーテンを閉め忘れているのだった。ふ、と残夏の腕の力が抜けて寝てしまったと分かる。彼の大きくて薄い肩越しに、晴れ渡った夜空から真っ直ぐ降り注ぐ月光を見つめた。

神様、勝手だって怒られてもいい、でも、叶えて。残夏のためにしかお願いしないから。祈らないから。残夏が幸せになりますように。




「おやすみ」

呟いた言葉は光に溶けた。