ぼたぼたと滴が落ちていくのをぼんやり眺めた。べったりと張り付いたシャツが気持ち悪い。学校指定のそんなに良くない生地だから結構硬いし、もう散々で、ああもうどうしようね、オレ。
おいおい自分、緑間への嫉妬はどこ行ったよ、そんでもって緑間も黒子に負けてあんな顔しちゃって。秀徳のエース様がこのザマなんていうのは嫌だぜ。
あいつを勝たせたいと湧き上がる気持ちが、今まで底の方で沈みながら堆積していた憧れとか嫉妬とか打算とかをぶわりと舞いあげる。
不安そうな顔で見上げる名前ちゃんは、精一杯背伸びして傘の中にオレを入れようとしてくれてて、細い腕とか、濡れちゃった髪とか、見上げる顔とか、すぐそばにあると思うと堪らなくなって、全部離したくなくて、こんなびしょ濡れなオレがさわっちゃ駄目だ駄目だ、なんて思ってるのに腕はすっかり名前ちゃんを抱き締めていた。何してんだオレ、風邪引かすだろ、オレはバカだから引かねーけど。
「高尾?」
どうしたの?と続きそうな唇を、唇で触れるようになぞると腕の中でぎゅっと名前ちゃんの身体が強張るのが分かった。くっと咽喉の奥から漏れそうな笑い声を抑えながら、ああやっぱりこうやって抱きしめちゃだめだと思い知る。キセキの世代の緑間を影から支えるサポーター、誰とでも話せる、フザケタことも言える、気がきく、そんな風に名前ちゃんは思ってる、そう見えるようにしてきたのはオレだ、

そんな良い奴いるわけあるかって

オレは、緑間真太郎を負かすために、その目に留めさせるために強くなったのに、結局あいつのサポートで、対等な相手なんて見られちゃいねえって、心のうちじゃ黒くぐるぐる妬みやらが汚く渦巻いてるっつーのに。緑間が負けて、あんな顔見れて、やっと本気でパートナーやってこうと思ったとか、言えねーって。

「名前ちゃん、オレのどこがすき?」
殺したはずの笑いが微かに語尾に混ざるけど、尋常じゃないオレの様子に名前ちゃんは真面目な声で。あらら、つられてはくれないんだ?
「、よ」
抱きしめたままだから顔は見えない、見れない、今オレひどい顔してんだろうな。名前ちゃんはオレの耳に届いていないこともすっかり分かっているかのように、オレの肩を少し押して顔を無理矢理に合わせてもう一度言った。

「高尾の目がすき」

ああ、そっか、
うまくまぜっかえそうとしたのに言葉が舌でももつれて出てこない。くそ、これだから、

「な、に、…なんつーか、」

「全部すきだけど、目は、特別」

これだから手放せないんだっつの。ぎゅうっと今度はちょっとやそっとじゃ押し返されないくらいに抱きしめた。風邪引かせたってオレが看病するしすっかり元気にもさせてやる、期限はそうだなあ、無しでいこうか。