21年前の、この日も寒かったのだろうか。

昼は晴天で、アスファルトは乾いている。暖房が入ったオフィス街でぬるく貼り付いていた空気が、冷えた夜風にスッとぬぐい去られていく。顔をあげると冷たく透き通った空から真っ直ぐに星が瞬いて見せた。
(さくちゃん)
無意識にさくちゃんを見つめる癖がある、と気づかせてくれたのは緑間で、さくちゃんやたら目を反らすしノートやら手やらで顔かくそうとするんだなんでだろうなー?っていうとあきれた顔で「お前は見つめすぎなのだよ目が合うまで見つめているのに気づいてないのか?」と返された。おいおいンだよそれ!超やんでれってかなんつーかストーカーチックじゃん!そう思ったけど振り返って考えてみると、確かに緑間の言う通りかなとも思った。
タイトルもなにも覚えていないけれど最近映画かドラマか本か漫画で、だれか大切なひとを亡くしてその生命を取り戻す機会が与えられた時、ハッキリとその人を思い浮かべなければならなくて女が「睫毛の数まで覚えているわ」と迷いない表情でそう言ったシーンだけやたら印象に残っていて、そのせいかなと思った。
帰り道を急ぎながら、ケーキの入った袋をそっと持ち直す。さくちゃん指定のホールケーキは内緒でお店にちょっとボリュームアップしてもらった。絶対に「食べきれないって!」と言うだろうけど、俺はさくちゃんがその後で小さく、ありがとう、って言ってくれるのもお見通しなわけで。
食べきれなかったら明日も一緒に食べよう。きっとケーキを食べてるさくちゃんを見続けてまた怒られるけど。照れ隠しで怒るさくちゃん嫌いじゃないぜ。

ハッピーバースデーさくちゃん