アーリーサマー
「 ねぇ不二! 」
午後のHRが終わり、3年6組の教室では生徒達が早々に帰り支度を済ませて個々に帰宅をし始めていた。
騒がしかった教室内も今は生徒の数は疎らでとても静かだ
そんな中、これから部活が控えている不二は鞄に教科書を詰めたりと身支度を整えている。
一方の菊丸は身支度をするわけでも何をするでもなくただぼんやりと教室の窓から外を眺めていた
そして菊丸が不意にある一点に目を向けると突然驚いたように冒頭の声を上げた
「 ん?なに? 」
不二が何事かと呼ばれた声の主の方へと視線を向けると不二にこっちに来てと言わんばかりに手招きをしている
「 なんなの? 」
「 いいから、こっち来て窓見てみ! 」
「 え? 」
少し焦った様に菊丸は不二の腕を掴むとそのまま窓際の方へと引き寄せた。
仕方なく不二は意味も解らぬまま窓の外を覗いて見る。そして菊丸が「あそこ!」と指差す方へ視線を傾けた
すると、正門の付近にここにいるはずのない人物の姿が目に入り不二は思わず言葉を失った
「 ....... 」
「 あれ、四天の白石じゃない? 」
「 ....... 」
そう、それは本来なら大阪にいるはずの人物、四天宝寺のテニス部部長白石だ。その白石が何故か今青学の校門の前で佇んでいる
「 不二...待ってんじゃない? 」
「 え...でも何も約束してないし。第一... 」
これから部活...
...それに彼もこれから部活の筈では?
不二がそんなことを考えていると突然菊丸が窓から身を乗り出した
「 おーい!白石ー!不二が今からそっちに行くってさー 」
「 うわっちょっ!英二 」
周りを一切気にしないような菊丸の大声にまだ残っていたクラスメイト数人の視線は2人に向けられる。それに気付いた不二は慌てて菊丸に詰め寄る
「 英二!恥ずかしいって 」
「 ほらほら、不〜二 」
そんなことお構い無しの菊丸は不二に再び窓の外を見るように促した
不二は軽く溜め息を一つ吐いて言うとおりに外に目をやる。先程の菊丸の声に気付いていた白石が此方を向いて手を振っていた
「 ....... 」
不二も半ば反射的に手を軽く振り返していた
「 不二は今日は部活休みかぁ 」
「 え?!....でも 」
菊丸は早々に身支度を整えてテニスラケットを肩に担ぎながら不二にニコリと満遍の笑みを浮かべる
「 あいつ大阪からわざわざ来たんだぞ 」
「 ....そうだけど 」
「 ほーら!行けって 」
菊丸に背中を押されて不二は軽く苦笑を浮かべながらも
たまにはサボりもいいかな..
そして何よりわざわざ大阪から自分に会いに来てくれた恋人になんだか嬉しさと愛しさも相俟って、不二はこのまま部活をふけることを決めた。
部活に向かう菊丸とは途中まで一緒に行き下駄箱でお別れした。
明日何周走らされるかな..
なんてことを考えながら校門まで歩いて行くと色素の薄い軽く外はねした頭がこちらを向いて手を振っているのが視界に移る
「 不二くん! 」
「 ....白石 」
名前を呼ばれて不二は少し早足になって白石の元へ駆け寄る
改めて白石の全身に目をやると彼の姿は制服のまま。どうやら学校からそのまま来たようだった。
「 暑いなぁ! なんや東京のが暑く感じるわ 」
白石は額にうっすら汗を浮かべながらも爽やかに微笑む。
「 今日はどうしたの? 」
やはり不二にはそれが気がかりだった。
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