好きなのは俺?


「 不二....好きだよ 」










 練習後の自由時間。
不二とルームメートである白石は入浴へ、そして幸村は切原の勉強をみる為に彼の 部屋へ、とそれぞれ個々の用事で部屋を留守にしていた


そうなると必然的に部屋の中は不二ただ一人だけとなる。
でも別に不二は何処に行く訳でもなく部屋で読書をしたり、勉強をしたりして退屈な時間を潰していた。

そうして幾分か時間が経過し暫くすると幸村が部屋へと戻って来た


――そして戻って来ての開口一番が冒頭の言葉だった




「 ......え?..




今なんて..? 」



勿論、突然のことに驚いた不二は上手く言葉が返せない




「 もう一度言わせる気? 」




「 え、だ、だって...信じられないんだもの..君が僕のことなんて...冗談でしょ? 」




「 俺は冗談でそんなこと言わないよ。


俺のこと信じられない? 」




「 いや、信じてないとかそうゆうわけじゃ...でもなんだか夢を見ているようで実感が湧かなくて.... 」




そう、...実はこの合宿で彼と偶然にも相部屋になり初めてちゃんと会話をするようになって以来からずっと密かに不二は幸村に好意を寄せていたのだ

だから驚きも尚のことで...






と、不意に幸村がにこりと妖しく微笑みながら不二へと近付いてポツ..と呟く





「 じゃあ俺が夢から覚ましてあげるよ 」






「 .....え? 」



「 不二.. 」



驚きの余り未だ頭がついていけない不二に対し、そんなことはお構い無しな幸村が不二の身体を自分の元へと引き寄せ優しく抱き締める


「 ゆ、幸村...ちょっと待っ 」

「 不二、愛してる.. 」




































「 ....なんの真似?それ 」






あと数センチで二人の唇が触れ合う...寸でのことだった

不二に抱き付く幸村のその背後から誰かが声を掛けてきた


そして、それは..





「 幸村?! 」




今さっき不二のことを好きだと言って抱き締めて来た筈の彼、幸村がドアに凭れかかりながら何故かこちらを見ていた






「 ....幸村が二人...? 」






不二は目の前にいる幸村とその背後にいる幸村を交互に見つめる










「 ちっ...本物が出てきよった 」



「 え? 」



すると、不二の目の前にいた幸村が頭をポリポリと掻きながら不二の側から離れた


そうして姿を現したのは...






「 仁王..!! 」





そう仁王が幸村に化けていたのだ





「 プリ。あともうちょいやったのにのぉ 」





仁王はそう言いながら幸村を軽く睨む





「 はぁ全く...俺に化けて勝手なことをするのはやめてくれよ 」



が、そんな仁王の視線を軽く交わし、幸村は深いため息を吐きながら言葉を返した





「 幸村やったら不二のこと簡単に落とせたのにのぉ。」




「 .......。次また同じことをしたらお仕置きだよ? 」






幸村は呆れたように苦笑いを浮かべると不二の方へと視線を移した。その不二はというと、ますます今の状況についていけずにいて半ば放心状態でその場に立ち尽くしていた。


幸村はそんな彼の元へとそっと近付いて行く



それと入れ違いにその場を去ろうとする仁王がすれ違いざまに幸村の肩に手を置いて耳元でそっと囁く



"美人な部長さんのお仕置きならいつでも大歓迎〜 "




そう言って仁王は悪戯に笑うとそそくさとその場から去って行った



そんな彼に構うことも振り向くこともなく幸村は不二の顔を覗き込む






「 ...不二?大丈夫? 」






「 んー?...!! あ、ごめん 」




急に視界に入ってきたドアップな幸村の顔に驚いた不二は思わず後ろに後退ってしまった



「 フフ。ごめんね、大丈夫だよ。


俺は本物だよ 」





幸村はそう言って優しく微笑む





「 .......


うん、君は、本物の幸村だ.... 」





不二は幸村の端正な顔を一瞬だけチラリと見つめると恥ずかしそうに俯いて呟くように返した






「 へぇ、さっきは分からなかったのに? 」






「 う......それは... 」









"好きだよ"




"不二、愛してる"






あの言葉を君の声で聞いてしまった僕は夢か現実か分からなくなるくらい嬉しくて.....







ーーそんなことを不二の胸中で思っていたが決して口に出して本人には言えるはずもなく.....




不二はここまできてなに一つ彼に伝えられない自分の勇気のなさに落ち込み更に顔を俯かせた









「 それにしても...不二が俺のこと好きだったなんて知らなかったな 」




そんな不二に気付いているのかいないのか、幸村が顎に手を添え考えるような素振りをしながらとんでもないことをさらりと言ってのけた



「 え?! 」



勿論不二は心臓が止まりそうなくらい驚いて顔を上げる




「 あれ?違うの?俺に抱かれてる時なんだかうっとりしてたから 」




「 !!!!!!


あ、あれは君じゃなくて君に化けた仁王だし! 」







「 ああ、、そうか。俺じゃなくてごめんね 」





「 ち、ちが....そうゆう意味じゃ... 」





幸村は普段は滅多に見せないであろう不二の動揺した様子とその焦った反応にクスクスと笑っている

一方の不二は余りの羞恥に顔を背けてしまう







「 不二、こっち向いて?



大丈夫だよ。俺は本物だから 」



「 ....え? 」




不二が振り向こうとしたと同時に幸村が不二の腕を掴み引き寄せて自分の胸中に抱きとめた



「 幸村?! 」



驚きのあまり足が竦んでしまい立っているのがやっとの不二を幸村が支えるようにますます力強く抱き締める


そして耳元でそっと優しく囁いた






" 不二、覚えておいて。これが本当の俺だよ。


次、間違えたら



お仕置きだよ? "






end


.....勿論、仁王のお仕置きとは別で、ね


―――――――――――
※本当はパス部屋行きの話でした;仁王と幸村の気持ちがいまいちよく分からないまま終わっちゃって..。不二が幸村に片想いってパターンが私的にツボです。これは有りがちそうだけど

それでは拙いおはなしを読んでくださりありがとうございました



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