たいそう嬉しそうな顔をして振り返って笑う黒子に紫原も微笑み返した。



妙に影の薄い少年は不思議な力を持っていて、見る者を釘づけにした。誰もが彼のために力になりたいと思うし、彼を愛するようになる。影が薄いのに一度視界に入れてしまったら二度と目を反らせなくなる。彼の影の薄さは恋敵を量産しないためだと紫原は勝手に思っている。


かくいう自分も数多の恋敵たちを退け、ときには彼の傍からその存在を抹殺し、多大な苦労を払って彼の隣を獲得した。しかし恋愛ごとに悉く鈍くできているらしい彼相手に、恋敵たちを退けるより、想いを成就させる方がよっぽど難攻したものだ。

それでも今はこうして二人で過ごすようになったのだから、過去のことは過去のことだ。今、彼がここにいて、自分を好いてくれているのが、嬉しい。

「紫原君。僕と一緒にいるの、退屈ですか?」
「ううん。そんなことないよ〜」
「そう言ってこの間もぼーっとしてたじゃないですか」


むぅ、と口を尖らせる表情さえ愛らしい。あぁ、これはもう完全に末期だ。お医者様でも草津の湯でも治せないと言う病にしっかり自分はかかっているようだ。身体的には何も変わらないというのに、この愛しさは異常だ。きっと彼はケーキとかキャンディとかそういった甘いもので出来ているに違いない。

余談だが、常日頃より一切合切の疑問を差し挟むことなく、純粋に100%本気でそう考える紫原に、そして考えるだけではなく言葉にする彼に、近頃赤司はつっこみを入れる回数が増えていた。まさかあの紫原が恋をしてこんな変貌を遂げるとは思っていなかったのである。恋は魔物だね、と彼は苦笑するのだった。
どーでもいいが、それに同意する黄瀬は紫原に日々、捻りつぶされている。


少し機嫌を悪くしてしまった彼の隣に行って、紫原は腰を下ろした。ふわり、と風に乗って運ばれてきた香りに黒子が彼を振り向く。ほんわりとした甘い香り。黒子はこの香りがとても好きだった。

そんな些細なことで再び機嫌が上向いた彼に紫原がそれを感じ取って首を傾げる。自分では思いつかない所に幸せを見出す黒子のことを紫原はいつまでも理解できない。そして、その不思議さが益々紫原を惹きつけるのだ。

「紫原君……」
「ダメなの……?」

真剣な表情が彼が本気だと教えてくれる。
息をついて黒子は体から力を抜いた。そのまま紫原へと体を預ける。目を瞑り、その時を待つ。

すると、紫原が腕を回してしっかりと抱き締めてくれる。思いの外、力強い抱擁に黒子は驚くが、直後に落ちてきた唇に思考が飽和する。



「……大丈夫?」
「ん。大丈夫です」
「黒ちんが……すごく好き。世界で一番好き」

しばらくして声をかけてきた紫原の、意外な言葉に黒子は一瞬何を言われたのかわからないという顔をして、ふわりと笑った。
どうしてこの人は普段はゆるいのに、意外なところが妙にかっこいいんだろうか。

不安になる必要なんてなかった。こんなにも自分を大切にして、好きでいてくれる紫原君に申し訳ないのだ。彼の愛情を疑っているようで、嫌だ。

こんなにも愛されていると、実感させてくれるのに。

優しく黒子の髪を撫でながら、紫原は安心して黒子を抱き込んでいる。このぬくもりは、何よりもゆったりとした穏やかな時間をくれる。いつも休まるときがないような多忙な毎日で、彼と過ごす時間は宝物だ。彼のためなら何だってする。

紫原は黒子の身体を抱いたままで口を開いた。

「ねぇ、黒ちん」
「うん?」
「覚えておいてね。オレは何があっても黒ちんを手放すつもりはないよ。たとえ黒ちんがオレから逃げようとしても、一度手に入れたものを手放すほどオレは独占欲が小さいわけじゃないから……ごめんね?」

口元は笑みを浮かべて謝りながらも、紫原の瞳は全く笑っていない。真剣そのものだ。
黒子は心を見透かされたのかと思うほどタイミングのいい彼の言葉に束の間呆然として、次いで涙を零した。


「紫原君」
「何?」
「好き。貴方が好きです。―――愛しています」




自分が離れようとしていることを分かってるのか、感じ取っているのか―――
紫原の言葉に、今はただこの甘い時間にいつまでも浸っていたいと思った。









蜜のの囚われの少年





END
相互記念として頂いちゃいました!
とても素敵な紫黒にニヤニヤが止まりません(^q^)紫黒ハァハァ←
しかも帝光時代を書いて頂いたんです(^^)いいですね!
甘々な中にテツ君の複雑な気持ちが入ってて…私では表現できない素敵さ!くう…涎が←←
本当に有難うございました!

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -