先輩は無防備だと、思う。
いや、無防備なんだと確信した。
部活も終わり更衣室には今、俺と日向先輩だけが残っている。
想い人を前にしてどぎまぎしている俺をよそに、先輩は上半身裸のまま俺の方へ向いた。
「着替えねぇの?つか早く着替えろ、俺が鍵閉めんだから」
「…ウス」
いや、固まったままドアの前で突っ立っていた俺が悪いんだけれども。
昨日告白した奴を前にして平然としていられる先輩に、正直驚いた。
これは只単に意識されていないのか、昨日の告白を忘れられているのか(いや…流石にそれは)(ないか…?)
いつもと態度の変わらない先輩になんだかムッとして(昨日返事を聞かなかった俺が悪いんだけれども)、ソロリと傍まで近付き先輩を挟む形でロッカーに手を付く。
ロッカーと俺に挟まれた先輩はこれでもう逃げれない。
驚かれるかと思ったが、先輩は此方を向いてはくれなかったので表情が伺えなかった。
「…なにしてんだ、火神」
「…俺、昨日の返事聞いてねぇ、です」
「………」
「つか、何二人きりなのに平然と着替えてんすか…誘ってんのかよ、ですっ」
「っダアホ!!」
「痛ぇっ!!!!」
ガバリと勢いよく此方を向いた先輩は、急に俺の横っ腹目掛けてグーで殴ってきた。
ちょっといい雰囲気かも、とか思った俺が馬鹿だった。正直、痛い。しかも横っ腹とか、殺意しか感じない。
「せ、先輩…?」
「昨日返事も聞かずに逃げた奴がなに言ってやがる!」
「ぁ、いや…それは…」
「それに返事聞けねぇ奴が襲おうとすんじゃねぇ!ダアホっ!!」
あまりの勢いに怖じ気付いてしまったけれど、よく見ると先輩が震えていた事に気付いた。
慌てて先輩の肩に触れようとしたけれど、伸ばした手は先輩によって払われた。
「…触んな」
「先輩、聞いてくれ、です」
「嫌だ」
「先輩っ」
「嫌だ」
弱い抵抗を振り払って先輩を抱きしめる。ビクリと先輩が震えたけれど、その後は抵抗もなかったので少し安心した。
「好き、です」
「……」
「好きなんだ、ですっ」
「…ダアホ」
俺だって好きだ、と小さく呟かれた声はしっかりと俺の耳に届いた。
それが信じれなくて、何度も何度も聞けば最終的にまた横っ腹を殴られたけれど。
でも恥ずかしかったのか思いっきり抱き着いてきた先輩は、やっぱり無防備だと思う。
俺だけに無防備になって