「遅くなり、すみません」

「おー、やっと来たか」


着替えてから体育館に入り、黒子はすぐに今吉の元へ行った。

しかし青峰は遅れて来たにも関わらず、何食わぬ顔で壇上に上がり寝そべる。
ちゃんと着替えてはいるが部活をする気はないようだ。

そんな青峰に今吉も黒子も気にしなかったが(する気がないのを分かってるのに相手をするのが面倒だからだ)、若松だけは違った。

青峰の態度に腹を立て、大股で青峰の所へ行き、おいっ、と声をかける。
しかし青峰は気のない返事で、あー?、と返したから余計に若松は苛立つ。


「テメェ、部活しにきたんじゃねぇのかよっ!!」

「はぁ?ねぇし」

「なんだとっ!真面目に練習しろよ、青峰!!」

「うっせぇなぁ…真面目とか、ありえねぇし。テツがいるから俺も来てるだけだしな」

「なっ!ふざけんのも大概にしろ!!」

「まぁまぁ、若松ほっときぃ」

「っでも!」


あまりにも大きい声で若松が叫ぶから他の部員の手が止まってしまっている。

それにこのままだと殴り合いに発展しそうだ。二人とも手が早いし。

仕方ないので今吉が間に入り止める。隣には黒子がいるから、青峰がもし暴走しても大丈夫だろう。


「試合ではちゃんと出るんやし、こうやって部活に来とるだけでもえぇやん」

「いるだけじゃ意味ないじゃないスか!」

「そうやけどなぁ…本人やる気ないし相手するだけ無駄やで」

「コイツぜってぇバスケ、馬鹿にしてんスよ!練習もしねぇで…ふざけてやがるっ」

「あの」

「…ん?どないしたん、黒子クン」


珍しい、と思ったが口には出さず今吉は黒子に視線を向ける。

黒子は今吉ではなく、若松を見つめていた。そして一歩前に出てから口を開いた。


「青峰くんをあまり酷く言わないであげて下さい」

「はぁ?」

「彼は決してバスケを馬鹿になんてしてません」

「練習に参加してねぇ事がすでに馬鹿にしてんだろぉが!」

「練習に参加しないのは僕もどうかとは思いますが…」


そう言ってチラリと青峰に視線を向ける黒子に今吉もつられて視線を向ければ、罰が悪そうな顔で思わず今吉は吹き出しそうになった。

そんな今吉をよそに黒子は話を続ける。


「彼は誰よりもバスケを好きなんで、誤解して欲しくないんです」

「誤解もなにもアイツの態度をどうにかしろ!」

「僕に言われても…困ります」

「んだとっ…!!」

「ちょ、まぁ、落ち着けや若松」


危ない。
今度は若松対黒子になるところだった。

慌てて二人の間に入り、今にも黒子につっかかりそうになった若松を止める。

横目で青峰を見れば、青峰は青峰で若松に今にもつっかかりに行きそうだった。
本当に危なかった。

黒子も青峰に負けないほどの性格だ。流石、キセキの世代。


今吉は黒子と様子を見ていた他の部員に、練習再開を伝えると若松と一緒に壁際に移動した。
青峰は黒子が離れていった時点ですぐに寝る体勢に入った。いや、ほんと、流石キセキの世代。


「あんなぁ、いちいち青峰の相手しとったら疲れるだけやで」

「…そうっス、けど」

「しかし黒子クンも言うなぁ…ビックリしたわ」


まさか、青峰の肩を持つなんて。いや、練習しないのは黒子もよくは思っていないようだが。


「あぁ…俺も驚きました。普段はいい奴なんスけど、青峰の事になると…」


黒子はどうやら青峰が部員によく思われていないのが嫌みたいだ。

多分、相棒であり誰よりも彼を理解しているからだろう。きっと黒子は皆が青峰を見放しても、黒子だけは青峰を見放さないだろう。
そう思える程だった。



―――



「あー…終わった終わったぁ!」

「君、寝てただけじゃないですか」

「早くマジバ行こうぜ、テツっ」

「はぁ…聞いてないですね。…行きましょうか」

「おうっ!」


呆れつつも差し出された手に抵抗は出来なくて、黒子も手を差し出しだした。


「…テツ」

「なんですか?」

「俺とテツはずっと相棒だよな…?」


黒子を見ずに夕日に染まる空を眺めながら問う青峰の瞳は、どこか不安げに揺れていた。

けれど黒子は気付かぬふりをして、同じように空を眺める。


「君が離れない限り僕は君の影であり続けますよ」

「ばぁか、誰が離れるかよ。頼まれても離れてやんねぇー」


ギュッ、と繋いだ手に力を入れた青峰に黒子も負けじと力を込めた。



いつか、なんて有り得ない。
青峰と黒子は二人で世界が成り立っているのだから。


――ずっと、ずっと。





〜おまけ〜


「そういえば黄瀬くんから伝言のメールありました」

「は?何て?」

「俺が勝ったら黒子っち下さいっス、ですって」

「…アイツ、今度会ったらぜってぇ絞める」

「負けないように頑張って下さいね」

「なぁに言ってんだよ、テツ」

「?」

「テツが居んのに俺が負けるわけねぇだろ」





君と僕の永遠

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