「一つ、条件がある」


そう言って青峰が出してきた条件に、スカウトをしに来た高校の教師は必ず怒って帰って行った。

青峰はそれを気にもとめなかった。その条件をのんでくれなければ行くつもりなどない。
けれどある日スカウトにやって来た高校の教師は違ったのだ。


「テツもスカウトで入れてくれんなら行ってもいーぜ」

「ふむ…テツとは誰か聞いても?」


今までの教師ならこの時点で意味の分からない事を、と言って怒って帰る。

しかし今回は違った。
青峰は目の前に置かれたパンフレットをチラリと見る。そこには『桐皇学園』と書かれていた。


「…俺の相棒、黒子テツヤ」

「本人はそれでいいと言ってるんですか?」

「あ?あー…そういや言ってねぇな」


というより決まるまで言うつもりはない。
黒子の性格をよく知っているので、決まってない今言ってしまえば怒られるかもしれない。いや、完璧に怒られるだろうし暫く口もきいてもらえないだろう。

けれど青峰も曲げられないのだ。


「…つーか、テツと離れるとかありえねぇし」


思わずポツリと出てしまい、なにより目の前の教師に聞かれたことが少し恥ずかしい。

しかし教師である桐皇学園のバスケ部監督の原澤は、手を顎に置き青峰を真っ直ぐに見た。


「わかりました。また来ますので、その時は黒子テツヤ君も連れて来て下さい」

「……あぁ」


青峰の返事を聞くと、では今日はこれで、と言って原澤は帰って行った。

それを見送った後、パンフレットを手に持ち青峰も応接室から出て行く。





「青峰くん」

「テツ……と、誰だテメェ」


呼ばれた方に目を向けると青峰の事を待っていたのか、自分のカバンと青峰のカバンを足元に置いて黒子が居た。

それだけならいいが、黒子の隣に知らない制服を着た人物がいたので青峰の眉が寄る。

訝しげな表情を露わにしたまま黒子に近付き、黒子とその人物の間に割って入った青峰に目の前の人物は苦笑をもらした。


「今吉翔一、ついさっきスカウトに来た桐皇学園の主将やらせてもらっとる。よろしゅう」

「で、テツになんの用だよ」

「違います。青峰くんに用みたいですよ」

「は?俺に用があんのに何でテツと一緒にいんだ」

「手伝ってもらたんです」


黒子が二人分のカバンを持って青峰がいる応接室へ向かっていた所で、同じく応接室へ向かっていた今吉とぶつかってしまった。

今吉は少しふらついただけですんだものの、二人分のカバンを持った黒子はふらりとバランスを崩して転びそうになったが今吉が黒子の腕を掴みどうにか転ばずにすんだ。

そして向かう場所が同じだという事で、カバンを一つ持ってもらい応接室前まで一緒に行き青峰が出てくるまで話していたのだが、青峰の機嫌はだだ下がりである。


「重ぇなら教室で待っとけよ」

「重くなかったです」

「うそつけ」

「重くなかったです」

「あーはいはい」

「あの、ちょおええか?」


このまま放っておけば自分の存在など忘れて帰ってしまいそうな勢いだったので、今吉が話に割り込んでいった。

すると片方は訝しげな視線、片方は何を考えているかわからない視線を向けてくる。因みに前者が青峰で後者が黒子だ。


「アンタまだ居たのかよ」

「あぁ、うん…キセキの世代っちゅう君らを見てみたかっただけやったんやけど


「ふーん、で?」

「まぁ、おもろいなぁ、君ら」

「一緒にしないで下さい」

「おい、どういう意味だ、テツぅ」

「さぁ」

「まぁ、君らがうちに来るん楽しみにしとるわ」

「え、」
「げ」


違う反応を見せた二人を疑問に思った今吉だが気にせず踵を返して帰って行った。

二人はそれに気付かず、寧ろそれ所ではなく、特に黒子に背を向けていた青峰は背後からの痛い程の視線に冷や汗をかく。


「君らって…言ってたんですがどういう意味ですか、青峰くん?」

「あー…いや」

「……」

「と、とりあえず帰ろうぜ」

「……」

「バニラシェイクおごるし!」

「…わかりました」


ホッと一息ついて足元のカバンを取り歩き出す。
黒子も青峰に並んで歩きだすがマジバに着くまで沈黙が続いたのは言うまでもない。



―――



「何という事を君は…」

「…いいじゃねぇか」

「僕の進路を勝手に決め様としたクセになに開き直ってんですか」

「テツは嫌なのかよ、俺と一緒の高校じゃあ」

「…そんな事ない、ですけど」

「じゃあいいだろ?」

「……」

「なぁ、テツ。俺はお前が居てくれりゃあそれでいいんだ」

「青峰くん…」

「俺達は光と影なんだろ…?ずっと傍に居ろよ…」


真っ直ぐに黒子を見つめながら囁く青峰に、黒子はただ頷く事しか出来なかった。



「ずっと傍に居ます」



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