女装の授業です
天気は快晴、絶好の実習日和だ。おれ達ろ組の面々は、木下先生の下へ集まった。
「本日は女装の実習を行う! 忍者たるもの、時には性別を偽らねばならん。そこで、今回は町に赴き適当な男から何か貰ってこい!ちなみに、私物・贈り物何でもいいが、奪うのは禁止だ!」
「うげ…」
隣のはっちゃんが嫌そうな顔をする。はっちゃんの女装は酷いからなぁ。
「期限は今日の夕飯の時刻まで! それでは解散!」
***
「三郎〜、紅さしてー」
着物を着て、髪もはっちゃんに結って貰った。後は三郎に紅を塗ってもらうだけ。あっ、別に面倒臭いからやってもらうとかじゃなくて、ただ単におれが不器用なだけだからね。
「おー、じゃあそこに座ってくれ」
「ほーい」
おれは三郎の前に正座した。なんとなく目を瞑った方がいいかなと思い、目を瞑る。
動くなよ。
三郎が口に紅を塗っている間、おれは言われた通り動かなかった。
「よし、もう動いていいぞ」
「ありがと〜」
目を開ける。おれの目の前には鏡があって、そこにはしっかり女の子になったおれがいた。
「うわ〜、春すごい!女の子みたい」
さすが三郎だね。と雷蔵が褒める。そうだろう、すごいだろうと自慢げな三郎に、はっちゃんが泣きつく。
「三郎、俺にも化粧してくれ! 俺このままじゃまた落第だ!」
「ハチ、さすがの私でも、お前はどうしようもない。諦めて補習を受けてこい」
伝子さんはもう嫌だぁぁ!と頭を抱えるはっちゃん。ちなみに、補習内容は伝子さん直々の女装指南だ。補習常連のはっちゃんが言うくらいだから相当きついらしい。
ご愁傷様。
「それにしても可愛いね、雷蔵」
程よく施された化粧、雷蔵によく似合っている花柄の着物。それに普段の柔和な表情が、より際立たせて雷蔵をかわいい女の子に見せている。
「ありがとう。でもこの姿の時は雷子って呼んでね」
「あっ、そっかぁ」
忘れてた。
「じゃあ春、三郎とハチは放っておいて、一緒に町まで行こうか」
うん。と頷いて手を差し出す。
「…?」
「手」
「手?」
「繋いじゃだめ?」
雷蔵はおれより背が高いから、必然的に見上げる形になる。くそぅ、おれだってあと少ししたら雷蔵の背くらいこえてやるんだからね!
「……そうだね、繋ごうか」
しっかりと手を繋ぐ。繋がないと迷子になっちゃうからね。
「じゃあ、行こうか」
実習の開始である。
(あっ、春。さっきの、他の人にはやっちゃだめだよ。)
(どーして?)
(いいから。わかった?)
(はーい)
(あんなことしたら何されるかわからないからね)
(なんか言った?)
(何でもないよ。ほら、早く行こう)