町へお出かけに行きます
「ふーんふんふふふーん」

「おー、春。今日はやけに早起きだな」

珍しく早起きをして髪を結っていると、はっちゃんが驚いた顔をしていた。驚くのも無理はない。だってまだ日が昇っていないから。おれだって早起きくらいできるもんねー。おれ準備するのに時間がかかるからなぁ。これくらいの時間から準備しないと。

「今日はねぇ、町に新しくできた甘味処に行くんだ〜。人気があって結構並ぶらしいからさ、早く行こうと思って! はっちゃんも行く?」

「俺は遠慮しとくわ。もう少し寝てたい」

おやすみぃといってもう一眠りするはっちゃん尻目に、おれはある重大な問題に取り組んでいた。

(組紐が決まらない……!)

割と完璧主義のおれは、大勢の人がいるところでは完璧に女装をしておきたいのだ。だから、いつもは三郎に任せている化粧も今回は自分一人で行ったので相当時間がかかった。
やっぱり、自分でやるとどこか違う。なんだろう?

「緑だとこの小袖に合わないしなあ。あ、この間もらったやつ!」

数ある組紐の中からあの赤い組紐を取り出す。おれあんまりこの色の組紐って持ってないんだよね。お兄さんありがとう。

「さってと、行きますか〜」


町に着くと、早速甘味処へ向かった。
うん。ちょっと早めに来たおかげで座るところがまだある。

「お姉さん! あんみつ1つ!」

ウキウキと待っている時、今日は委員会があったことを思い出した。そうだ、みんなにお土産を買っていこう。追加でどら焼きをたくさん注文しておく。そういているうちにあんみつが届いた。

「美味しい〜!」

パクパクとあんみつを食べていると、誰が向かい側に座った。誰だろうと思って顔を見ると、なんと助けてくれたお兄さんだった。

「よっ」

「あの時のお兄さん! えっとー、七竹さん? 七梅さん?」

「七松だ!」

そうだった七松さんだ。七松さんは団子をたくさん注文すると、おれをじぃっと見てきた。

「何ですか?」

「お前はこの町に住んでいるのか?」

「住んでるところはここじゃあないですよ。でも休みの日はこの町に遊びに来たりします」

ふーんと言っているが、まだおれを見ている。なんだか少し居心地が悪いなぁ。
注文した団子がどんどん七松さんの口の中に入っていく様子は面白いけど、それでも見てくる七松さんにちょっと聞いてみた。

「あの、何か私に言いたいことでもあるんですか?」

七松さんは「あ、ああ」と言っていたが、おれに言われて少し驚いているようだった。

「今日は暇なのか?」

「はい。今日は甘味を食べに来ただけなので暇ですね〜」

「そうか! なら私と一緒に花を見に行こう!」

「いいですよ」

遊ぶってどこで遊ぶんだろうね。
七松さんはどことなくそわそわしていて、残っている団子をお姉さんに包んでもらっていた。おれのどら焼きもちょうどきたから二人揃って甘味処を出た。
なんと、七松さんの奢りだ。太っ腹だなぁ。そうとうな量があったのに。

「ここだ!」

連れてこられたのは裏裏裏裏裏山だった。そういえば、ここは学園から結構離れてるからあんまり来たことがないんだよなぁ。
七松さんは何度も来たことがあるのかするすると進んでいくが、おれは今着物だ。枝に引っかかってボロボロになるのは避けたいからゆっくりと慎重にしか歩けない。

「七松さーん。ちょっと待ってください」

「ん? おお、そうかお前は着物を着ていたんだったな。すまんすまん」

そう言っておれの側にくると、七松さんはおれを抱き上げもの凄い速さで森の中を走りだした。お姫様抱っこなんてもんじゃない。まるで荷物かのように肩に担がれた。ちょっとお腹が痛いけど、なんだろう、すごく楽しい! 山の木がどんどん自分の後ろに消えていく感覚が面白かった。

それにしても、人一人担いでいてこの速さって……助けてもらったときといい、この人は一体何者なんだろう。

「着いたぞ! ん? どうした? 気分でも悪いのか?」

反応のないおれに少し心配をしたみたいだ。
おれはパッと七松さんの肩から下りると、この喜びを彼に話した。

「すっごく楽しかったです! 帰りもまたやってくれますか!」

まだ興奮が冷めないので、ぴょんぴょん飛んで発散させる。めちゃくちゃ楽しかった!

七松さんは少しの間ポカンとした顔をしていたけど、そうか! それはよかった!と言ってにっこり笑った。

「そうだ! これを見ろ!」

ばーんと腕を広げた七松さんの後ろに見えたのは、たくさんの向日葵が広がるお花畑だった。

「わー!」

「私の秘密の場所だ! 毎年この時期になるとこうしてたくさんの向日葵が咲く」

太陽の方を向いてたくましく咲いている。
くのたまの子と違ってあまり花に興味はなかったけど、こんなに綺麗なんだ。

「綺麗ですね」

「ああ。落ち込んだ時はここに来るんだ。気持ちを切り替えて元の自分に戻るために」

しばらく二人で向日葵を眺めて過ごした。気がついたらもう夕刻で、慌てて帰った。もちろん行きと同じように。やっぱり楽しい。

「今日はありがとうございました。また今度ここに来てもいいですか?」

「もちろんだ! えーと」

「春です」

「春! また会おう!」

いけいけどんどーん! という掛け声とともに、七松さんは走り去っていった。やっぱ速いな〜。
さてと、おれも帰ろうっと。

忍術学園に帰る頃には夕日がほとんど沈みかけていた。小松田さんにすっごく怒られちゃった……。はっちゃんにも怒られた……。


(いさっくん! いさっくん! いさっくんの言う通り私は恋をしているようだ!)
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