胸騒ぎ
「はっちゃーーん!!!」

大きな声で俺の名前を叫び、忍者らしからぬ足音を廊下中に響かせてこちらへ来るのは、俺の幼なじみである春だ。
春は止まるということを知らないのか、俺や他の五年を見つけると必ず突進してくる。そんな春をしっかりと抱きとめると、「えへへ」と言ってぎゅーっと抱き返してくる。可愛い奴だ。

常々他の奴らから言われているけど、俺は春をとても可愛がっている。そんな春が今日は帰ってくるのが遅かった。夕刻までという門限ギリギリに帰ってきた。心配しすぎだという意見は正しいことはわかっている。
けどよ、今回の実習は春の得意な女装の初歩的な実習だ。女装の補習常連の俺よりも帰りが遅いだなんて心配するに決まってるだろ?
途中で盗賊にでも襲われたか?人攫いに捕まったのか?何か大きな事件に巻き込まれたんじゃないか?
そんな心配が頭の大部分を占め、ついにいても立ってもいられず春を迎えに行こうとした時、春が帰ってきた。

「春、今日はどうしたんだ?遅かったじゃねえか」

怪我でもしてるのか?と体を調べるが、特にそんな様子もない。

「えっとねー。なかなか相手が見つからなくてね?どうしようって思ってたら、おじさんに絡まれて…」

「なんだと?!」

チンピラに絡まれた? 春が?
ちくしょう、春に何かあったらただじゃおかねぇぞ。

「そしたらねー、お兄さんが助けてくれたの。そのお兄さんすっごく強くてね?おじさんを吹っ飛ばしちゃったの」

こうやってね、ばーんって。
身振り手振りで話す春。
とりあえず、春に危険は無かったってことはわかった。けど、何者だそいつ。人をぶっ飛ばすって……。

「それでその後一緒に団子を食べたからおそくなったー」

……聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。

「……なんだって?」

「だーかーらー、一緒に団子を食べたら遅くなったのー」

春に手を出したのはどこのどいつだ。

「はっちゃん。みんなのとこ行かないの?」

しょうがない。春に手を出したことはこの際見なかったことにしよう。春を助けてくれたしな。

「そういやあ春。手に持ってる組紐ってそいつから貰ったんだろ?木下先生に渡さなくていいのか?」

春のことだから、食事の後そいつに貰ったんだろうと思ったのだが……。

「え?こ、これ?あぅ、えっと……き、気に入ったからさ、貰っておこうかなって、思って……」

前言撤回。やっぱ許さねぇ。
顔を赤く染めて小さな声で俺に言う春を見て、決心した。
絶対にそいつを見つけてやる。


(焦ったー。おれ焦るとすぐ顔に出ちゃうからなー。ばれてないといいんだけど。今度七松さんに会ったらお礼しないとなー)
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