帰ってきました
「それやる!」
慌てて振り向いたおれの手に、ストンと着地したそれは紅い組紐だった。
そして間髪を容れず、
「私の名前は七松小平太だ!今日は楽しかった!」
じゃあな!という声がした。
慌てて顔をあげた頃には、七松さんはもう見えなくなってしまっていた。
人を投げ飛ばしたときといい、今といい、只者じゃないなぁ。
「あっ、おれの名前……」
言うの忘れてた。まあいっか、しょうがないよね。言う暇もなく行っちゃったし。
「そうだ、帰る前にどら焼き買っちゃお〜」
***
「ふー、つかれたー」
学園に着いて、真っ先に木下先生のところへ行ったけど、時間がギリギリだったからかな?少し心配されちゃった。
「どうした?いつもはもっと早いだろう?今回は竹谷よりも遅いぞ」
げ、遅くなったとは思ったけど、まさかはっちゃんよりも遅かったとは……。
「あはー。ちょっと柄の悪い人に絡まれて…」
「それの相手をしていて女装がばれたのか?」
「いやー、そうしようと思ったら別の男の人に助けてもらっちゃって。で、その後お礼に団子一緒に食べに行ったらこの時刻になっちゃいました」
へラリと笑ってそう弁明したが、苦い顔をされてしまった。
慌ててこう付け足す。
「で、でも!!ちゃんと課題はこなしましたよ!!ほら!!」
そう言っておれが組紐を見せると、
「そんなことわかっとる、合格だ」
と言って頭を撫でてくれた。
「これは回収しておくぞ」
先生の手が組紐に触れる前にバッと先生から離れる。
「逢川、どうした?」
「こ、これ貰ってもいいですか?」
我ながら不思議なことを言ってると思う。見ず知らずの男の人から貰ったものなんて、普通はいらない。でも、これは絶対に渡しちゃだめだ。絶対に。なんの根拠もないけど。
「それは別に構わんが…。 それよりも、竹谷達に報告しなくていいのか?心配していたぞ?」
よかった。
あー、でもはっちゃんより遅かったんだもんね…。そりゃ心配するか。
お土産もあるし、早く行かなきゃ。
「先生ありがとうございます!!じゃあ、おれ行きますね」
「あぁ、それと明日は午前中休みだからな!!」
午前中休み?なんでだろう。まぁいいや。早くはっちゃん達のところに行こう。