心を射止められる
今日は午後の授業がないから町へ行くことにした。
行きがけに文次郎から、
「おい小平太、五年が町で実習してるから邪魔すんなよ」
と言われた。
私は実習の邪魔なんてしたことがないのにな!
しばらく町をぶらぶら歩いた。
もうそろそろ帰るか、という時に委員会の後輩に土産を買っていないことに気づき、甘味処に向かう。
一番近い甘味処に着くと、柄の悪い奴に絡まれている女がいた。
こんな事はよくある事だし、私はそこまで正義感が強くない。むしろ、冷めている方だと思う。
だから素通りしようとしたその時、チラリと女の顔が見えた。
ドクリ、と心臓が跳ねたように感じ、気づけば体が動いていた。
「……!」
女を見ると、驚いているようだ。
無理もないな!私も咄嗟のことで加減ができなかったから、少し飛ばしすぎた!
「いかんいかん、加減をするのを忘れていた!」
思いのほか弱かったな。
一応男の息があるか確認し、まだ驚いているであろう女の方を向く。途端にまた、ドクリと心臓が音を立てる。
「お嬢さん、大丈夫だったか?」
「だっ、大丈夫です!ありがとうございました!」
「そうか!それはよかった!」
怪我がないと聞いて、ほっとしている自分がいることに驚く。
共に学んでいる仲間たちならともかく、今会ったばかりの他人のことなど、いつもは気にもかけないというのに。
う〜ん、と柄にもなく考えていると話しかけられた。
「あの、お礼がしたいのですが、一緒に来て頂いてもいいですか?」
断る理由などないから、彼女について行くことになった。