「ウィーズリーおばさん。 お願いがあるんですけど、いいですか?」
ある日、ハリーは突然隠れ穴に来たかと思うと、一家のボスであるモリーへ頼みごとをしてきた。娘同然に思っているハリーからの頼みならば断るはずがない。モリーは快く引き受けた。
「それで? どういうお願いなのかしら?」
普段は遠慮してなかなか頼ってくれないハリーが自分にお願いをしてきたのだ。一体どんな願い事なのだろうか。モリーは自分が叶えられる願いならばなんでも叶えてやろうと意気込んでいた。
「料理を教えて欲しいんです」
ハリーのお願いは、意気込んでいたモリーからすれば拍子抜けするほど簡単なお願いだった。
「あら、そんなことでいいの?」
「はい。それで、あの、いいですか?」
「もちろんよ。ハリーのお願いなら料理の作り方くらいいくらでも教えてあげるわ」
ありがとうございます! と言って嬉しそうに笑うハリーを見て、この子本当にウチの子にならないかしらと思ったモリーは、その考えをすぐに撤回した。
(ハリーにはあの男がいるものね)
モリーは未だにシリウスとの仲を認めてはいないが、悔しいことに二人の間に他の人が付け入る隙がないことは誰の目から見ても明らかだった。
「じゃあ、まずは簡単な料理から作りましょうか」
それからは、ハリーは頻繁に隠れ穴を訪れて料理の特訓をしていた。もともと簡単な料理は作れたので、ハリーの料理の腕は着々と上がっていった。今ではかなり本格的な料理も一人で作れるくらいだ。 出来上がった料理を二人で食べているときに、モリーは気になっていたことを聞いてみることにした。
「ハリーはどうして料理を習おうと思ったの?」
ハリーのことだから美味しい料理を作ってシリウスに褒めて欲しいのだろうとモリーは思った。 (本当にシリウスのことが好きなのね)
「えっと、前に何かの本で、素敵な生活を送りたかったら美味しい料理を作れるようになるといい、って書いてあったんです。それに、私がシリウスにしてあげられるのはこれくらいしかないから……どうせなら美味しいものを作ってあげたいなって思って」
モリーが思っていた以上にハリーはシリウスを想っていたのだ。
(シリウスも早く覚悟を決めなさいよ。ハリーはとっくに覚悟できているんだから)
「そうなのね。じゃあ、頑張りましょ」
「はい!」
後日、シリウス邸では幸せそうに食卓を囲む二人の姿があったそうな。
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