少し前の埃とカビでいっぱいだったブラック邸は、今や見違えるように明るく綺麗になった。その応接室でシリウスとリーマスは久しぶりにゆっくりと話をしていた。再会してからは互いに忙しく、あまり話をする暇がなかったのだ。 二人の紅茶がちょうど無くなるだろうと思い、ハリーは紅茶を継ぎ足しておいた。
「おじさん、紅茶いれておいたよ」
「ありがとう、ハリー」
シリウスが頭を撫でてやると、ハリーは嬉しそうに目を細め、頬を赤らめていた。シリウスもそんなハリーを見つめ、自らの端正な顔をだらしなく緩めていた。
「君は随分とハリーに甘いね」
ハリーが退室した後にリーマスがクスクスと笑いながら言った。シリウスは紅茶に何個も角砂糖を入れるリーマスの手から目を離すと、こともなさげに話し出した。
「ジェームズとリリーが死んで、それが私のせいだと知った時、私はピーターを殺して自分も死のうと思った。……ピーターにはしてやられたがな。アズカバンでは死ぬこともできずにただ無意味な日々を過ごしていた」
「シリウス……」
「考える時間はたくさんあったからな、私はずっと自分が何故生きているのか考えていた。私が生きている理由はなんなのかと」
シリウスの言葉にリーマスの表情がかげる 。しかし、シリウスは語調を変えて生き生きと語り出した。
「だがな、アズカバンから脱獄してホグワーツでハリーと再会した時、僕はわかったんだ。僕が生きている理由はこの子だ。これからはハリーの幸せのなるために生きよう。ハリーを護り、慈しもうってな」
恍惚として語った後、そんなわけだ。と言って紅茶を飲むシリウスの一人称がいつの間にか普段のものとは違っていることに気がついた。いくら嫌っていても幼い頃の教えというのはなかなか抜けないようで、学生の頃からシリウスは感情が高まると「僕」という一人称を使っていた。 微笑むシリウスのパールグレーの瞳の奥に、かすかな欲望の色が見えたような気がした。
「君、もしかして……」
「なんだ?」
「……いや、なんてもないよ」
シリウスとハリーが幸せならばそれでいい。たとえどんな形であっても。
|