悪魔使いの宝物 | ナノ

If you would be loved, love and be lovable.


あかねが大学から戻ると、事務所に見知らぬ女がいた。

(依頼人の方かな?)

そう思ってあかねが近寄ろうとすると、女が急に振り返って目を見開いた。

「なに!? このいい匂いは! あんたなの?!」

口を開いたかと思えば、マシンガンのように言葉を発する女に、あかねはきょとんとした顔をした。女はあかねの側までくると凄まじい形相で見てきた。

「憎い。男を惹きつけるこの匂いが憎い! この女が憎いギャンッ!!」

女は何やら呟きながら暗い目で見てきたかと思うと、急にひっくり返った。

「大丈夫ですか?!」

急いであかねが駆け寄ると、女は叫んだ。

「なんでなの芥辺さん!! なんでこの女に!」

あかねの肩を掴み揺さぶる。
あかねは内心、なんなんだこの人はと思った。揺さぶる勢いがだんだん緩んでくると、今度は泣き出した。

「うう、どうしていつもこうなのよ! 私がなにしたっていうのよ。もう、いや……ううううう」

「取り敢えず、座ってお話しでもしましょう? 話せば楽になるかもしれないですし。そういえば、お名前はなんていうんですか?」

「恵……アンダイン恵」

「恵さん、お茶の用意をしてきますから、奥の部屋で待っていてください」


あかねがお茶をお盆に乗せて部屋へ行くと、アンダインはまだ泣いていた。隣へ座りお茶を差し出す。しばらくすると、アンダインが話し出した。

「私、もうすぐアラサーになるんだけど、男運がないのよ。好きになってもすぐに離れていく。私よりも綺麗な子に寄っていくの。お前みたいな嫉妬深い奴はごめんだ! って言って。私だって好きで嫉妬してるわけじゃないわよ。私だけを見て、私だけを幸せにして欲しいだけなのに……」

ポツリポツリと話し出すアンダインの話を聞くあかねに気を許したのか、アンダインは過去に付き合っていた男の話もしだした。
全てを話し終え、沈んだ顔をしているアンダインにあかねは言った。

「私にもよくわからないんですけど、愛ってこう、求めるだけじゃダメなんだと思います」

「私ががっつきすぎだって言いたいの?」

「そういうことになりますね。それに、偉い人も言ってました。『愛されたいなら、愛し、愛らしくあれ。』って。受け身の姿勢でいいんですよ。」

「愛し、愛らしくあれ……」

「それに女なら求めるよりも、求められたいと思いません? 恵さんはそのままで可愛らしいんだから、もっとでーんと構えていればいいんです。恵さんの魅力に気づかない人なんて気にしなくてもいいです」

私なんかが言ってもあまり説得力はないんですが。
そう付け足したあかねを見て、アンダインは惚けたように呟いた。

「そうよね。私の魅力に気づかない男がクズなだけよね」

「はい! そうだ、今度二人でショッピングに行きませんか? とりあえず恋は休んで、目一杯楽しみましょう!」

「……それもいいかもしれないわね」

「決まりですね! 恵さんはいつ空いてますか?」

ウキウキと計画を立て始めるあかねを見て、アンダインは不思議そうな顔をした。

「不思議ね。アンタといると気が楽になるわ」

「えへへ、ありがとうございます。恵さんはお姉さんな感じですね。雰囲気とかなんか大人びてます」

「あら、当然よ。アンタみたいな子供と一緒にしないでちょうだい。そういえば、アンタの名前、知らないわね」

「あ、すみません! 名乗りもしないで。私は九あかねといいます」

「そう。よろしくね、あかね。ショッピング楽しみにしてるわ」

じゃあ私は仕事で呼ばれたから行くわね。
そう言って事務所を出て行ったアンダインの背中を見送ったあかねは、食器を片付けだした。

「あ、連絡先を聞くの忘れてた。今度ショッピングに行くとき聞いてみよう」

ショッピングが待ち遠しくなるあかねだった。


余談

それからアンダインは妙な余裕を持って芥辺に接するようになり、余計にウザがられるのであった。
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